5、お礼に



「……。あ、今度クィディッチの練習見に来ないか?」

「ルール知らないし興味もない」

「……。じゃ、じゃぁ次のホグズミードに一緒に……」

「ホグズミードには行かない。欲しいものもないし」




あれ?こんなはずじゃ。




ブラックが思いの外、食い下がってくることに混乱して巧く頭が回らない。

本当は一つ頷くだけで上手く取り入る事だってできるはずなのに。


「……、もしかしてユラ、ホグズミード行ったことない?」

「……行く理由がなければ行く必要もないでしょう」



「「勿体無い!!」」



「……っ!!」


思わぬ第三者の参入に固まる。

言ったブラックもまさかの同調の声に驚いたらしく、勢いよく振り返った。


「驚かすなよ、ジェームズ!」


薄闇の中、まるで子供のような無邪気な笑顔を浮かべたポッターは、俺と目が合うと更にその笑みを深めた。


「こんばんは、ミス楢川」

「……今晩は、ポッター」

「おや、僕の名前を知ってくれていたなんて光栄だな!」


馬鹿にしているのか。

無意識に眉間に皺が寄る。

ポッターといえば、今やホグワーツでは知る人ぞ知る人物だ。

そして、恐らく本人もそれを意識しているのだろう。
目立つことの大好きな彼は、俺と正反対の位置に生きる存在だと前から認識していた。



なるべく、関わらないためにも。


「ところで楢川、ホグズミードに行ったことがないというのは本当かい?」


質問の真意が分からずに戸惑う。
だが無視する訳にもいかず、俺は小さく頷いた。


「なんて勿体無い学校生活を送っているんだい君は!シリウス、ぜひ彼女をホグズミードにエスコートしてあげるべきだよ!!」

「はぁっ?!」



「?……どうでもいいけど、声、大きい」


声の大きさを注意すると、彼らは素直に声を潜める。

その分、距離が近づいて不快だったけどこの際文句は言えない。


「……あの、ユラ。嫌じゃないのか…?」

「何が?」

「エスコート云々の……」


不意にブラックが尋ねてくる。

この期を逃したら次はいつチャンスが巡ってくるか分からないだろう。

俺は不遜な態度を崩さぬまま、ブラックを正面に見据えた。


「……そんなに言うなら、ホグズミードに案内して、楽しませてみせて」


そんな此方の言葉をものともせず、ブラックは、俺の知らない笑みを浮かべた。


「……っああ!楽しませてやるから、覚悟しておけよ」



「……何の覚悟?」





この時の俺は、ポッターがしたり顔で微笑んでいることなど、全く気づかなかったのだけど。










(11/09/04)


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