4、夜に
借りていた本の貸出し期限が今日までだったなんて。
まさかの失態だ。
薄暗い廊下をフィルチに見つからないよう足早に進む。
今捕まったら図書室の閉館に確実に間に合わない。
元から夜の方が得意で、人の気配にはより敏感になるからあまり心配はないのだけど。
急いだ甲斐あって、閉館時刻に滑り込みで返却できた。
ホッと一息つくけど、まだ安心はできない。
こんな時間にウロウロしているのを教授達に発見されたら、間違いなく何かしらの罰則をくらうだろう。
とりあえず俺は慎重に寮への道を歩き出した。
動く階段に差し掛かったとき不意に人の気配を感じて、咄嗟に柱の影に身を隠す。
すっと目を凝らすと、黒い影が二つ、階下から姿を表した。
(…ブラックと、ポッター…?)
見覚えのある二人組に思わず眉を潜める。
聞き取れはしなかったが、彼らはお互い二、三言交わすと別々の方向へと動き出した。
ポッターは階段を上らず、そのまま廊下の奥へ。
ブラックは俺が身を隠している方の廊下へ。
丁度、ブラックが俺の前を横切ろうとしたときだ。
「……、っ!」
ブラックが来た方と反対側。
つまりヤツが向かおうとしている方向から、誰かが歩いてくる気配を感じて。
俺は無意識に、ブラックの腕を掴んで思いきり自分の方へ引き込んでいた。
「……は……っ??!」
ヤツが間抜けな声を上げかけたから、手で口を塞ぐ。
「黙って。…フィルチだ……」
限りなく体を縮めて、やり過ごす。
「………」
幸い、フィルチは俺達に気づくことなく通り過ぎていった。
やっと息をつけたことに安堵していると、ブラックが此方を凝視している事に気づく。
「……っ、なに?」
――キミ自身を
もっと開いてごらんよ…
――ブラックが更に
ユラに興味をもつように。
ロアの言葉が頭を過る。
そうだ、此れは復讐の切欠になるかもしれない。
「…ユラ、助かった。サンキュな」
ニッコリ笑いかけてくるブラックを表情を変えることなく見つめる。
何か、巧く言おうと思うのだが、如何せん計画不足だ。
なにも出てきやしない。
そんな俺を後目に、ブラックが口を開く。
「あの…さ…、お礼をしたいんだけど……」
「要らない」
マズイ。
反射的に断ってしまった。
嫌悪感が先立ってブラックの申し出を一蹴してしまった事を、激しく後悔する。
ロア。やっぱり俺には、荷が重いかもしれない………
(11/08/28)
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