2、新学期に


一年かけて。

女としての生き方を学んだ。



ホグワーツには、別人として、編入という形をとることになった。



実際、俺はすっかり以前の面影を無くし、限りなく女子として違和感のない貌を創り上げていたから。


靡く黒髪は鬱陶しいものでしかなかったけど、母が切るなと言うので一年間伸ばし続けた。








改めて、編入生として紹介され、入学式のように全生徒の前に立つと足が震えたが、何とか耐えた。


早く寮に戻りたい。



俺は食事も疎かに足早に席を立つ。

同寮の女子に呼び止められたが、適当に誤魔化しておいた。





急ぎ足で廊下を進む。

二年間通った学舎だ。
今更迷ったりはしない。



だから、油断していたんだ。



スリザリン寮へ続く階段に差し掛かる曲がり角で、思いきり人とぶつかってしまった。


「……っ!」


「あっ……悪い、大丈夫か?」


大きな手に支えられて、何とか転倒は免れた。

礼を言おうと顔を上げた瞬間。


目の前に広がった黒に、表情が固まる。


(シリウス・ブラック……!)


整った顔立ちで此方を見下ろすブラックに、嫌悪感が溢れ出す。


すぐに離れると、姿勢を整え、軽く頭を下げて見せた。


「ありがとう、次から気をつける」


それだけ言って、横を通り抜けようとした。



だけど。


「……っ、待てよ!」


手首を捕られて、簡単に動きを止められてしまう。

握られた手から、不快ななにかが全身へと行き渡るような感覚に囚われる。




まだ、まだ早い。




お前に成すべき復讐を、考えついていないんだよ。





落ち着いた体を装い、俺は無表情のまま奴を振り返った。


「なに?」

「……っあ、いや、…えっと…お前さ、見ない顔だなって…」


何故か目を反らすブラックを不審に思いながらも、淡々と答えを返す。


「……新学期の式に参加してないの?編入生として紹介された…今日」


そう言うと、納得したように笑顔になる。


「そっか、それなら知らなくて当然だな!…俺、裏で花火の準備とかしてたから」


式に参加もせず、何をしているんだと。
言いかけてやめる。



俺には関係ないことだ。



それなのに、ブラックはまだ俺を解放しない。

それどころか意味の分からない事を言い出したのだ。


「あのさ…名前、教えて欲しい」




(………は?)





固まっている俺に、見たことない表情をしたブラックが、もう一度同じ言葉を繰り返した。



「名前を、教えてくれないか?」





「……ユラ・楢川」





はじめまして、ユラ。


そう言って笑ったブラックの顔を、俺はきっと忘れない。










(11/08/28)

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