Honey
キラキラの宝石も、豪華なディナーも、色とりどりの花束も。
きっと君の笑顔には敵わない。
「ユラ」
甘い声に呼ばれて顔を上げれば、期待を裏切らない綺麗な瞳と出合う。
精巧に創られた人形のような整った顔は、思わず見惚れてしまいそうなほど。
けれど彼…真壁翼は、学園を(別の意味で)代表するくらいの馬鹿だ。
「浴衣の色はREDでいいな」
「……真壁、…なんの話?」
いつだって突拍子がないから、話の流れを把握するまでに時間を要する。
まるでビックリ箱。
彼の口から飛び出すのは予想もつかない言葉ばかり。
「来週、AutumnFestaがあるだろう」
ああ、そういえばそんな時期か。
ゴロチャンが「一に奢らせる!」って張り切ってたやつ。
あと七瀬が「出店のバイトで稼ぐ!」って張り切ってたやつ。
秋祭りは風情があって好きだから、毎年一人でブラブラしていたんだけど…。
「ユラはどんな色もperfectに着こなすから迷ったが、やはりこの俺の瞳に類似した色が一番似合うと思ってな」
わぁ。真壁が“類似”とか難解な言葉を使ってる。補習の成果なのかな。
「…って、違う違う!ちょっと待って!…え、なに…どういうこと??」
「浴衣でfestivalに参加するのが日本の伝統なんだろう?悟郎が言っていたぞ」
おいおい。偏った知識植え付けるなよ。
強ち嘘でもないけれど、いくらなんでも偏り過ぎな真壁の話に思わず言葉を失う。
「うん、まぁ浴衣でお祭りってそりゃ風流だけど…」
「知っているぞ、そういったものはWASABIというのだろう!」
「わびさび、ね」
ついツッコミを入れてしまった。
言葉に詰まる彼に思わず笑いが零れる。
「とっ、とにかくだ!来週、ユラはこの俺とfestivalに参加するんだ!いいな?!」
「え、…えぇっ??」
「…な!い、イヤなのか?!!」
イヤとかそういう問題じゃない。
だけど上手く説明する事ができなくて、口籠ってしまう。
「…ま、まさか、俺以外の他の誰かと……!ドコのどいつだ俺を差し置いてユラを誘うなど…許せん!!そいつの所へ連れていけ!おまえに相応しいのは誰か分からせて……」
「ちょ、と、…ま、まって……つ、翼!」
「!!!」
暴走を始める彼を止めるため、私は咄嗟に名前を呼ぶ。
普段は恥ずかしくて名前呼びを頑なに拒否しているけど、こういう場合はすごく効果的だ。
「……、…落ち着いた?私が驚いたのは、いつの間にか真壁と一緒に秋祭りに行くことが決定してたからだよ」
ちゃんと先に誘って欲しかったな。
そう伝えると、何故か彼は少しだけ視線を反らした。
「……から…」
「え?」
「おまえなら、俺が誘ったら…喜んで受けてくれると思っていたからだ……!」
…………
うわー…すごい自意識かじ…
…じゃ、なくて。
「…うん。…うん、まぁ…」
たまには、正直に。
私から歩み寄ってみよう。
いつも優しさをくれる彼のために。
「…嬉しい、よ。…いつも私を喜ばせてくれて、ありがとう」
「…っ、ユラ!」
一瞬の出来事。
「っちょ、ま、ままま真壁?!!」
美しい銀糸のような髪が私の頬を掠めて、真壁との距離の近さを自覚する。
強く引き寄せられ、あっという間に彼の腕の中。
恥ずかしさのあまりそこから逃れようと身動ぎするが、大して意味をなさなかった。
「……おまえを笑顔にするのは、これからも…俺だけでいい。誰にも渡さない……、俺だけの愛しいHoney…」
耳元で優しく囁かれ、意識が朦朧とする。
半ば熱に浮かされる様に、彼に身を委ねた。
きっと、貴方の紡ぎ出す言の葉は、甘い甘い媚薬。
私を、魅了して止まない、愛の蜜。
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たつ兄の声でいわれたらしぬ(←
(11/05/18)
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