0、はじまる前に
影のように生きる。
それが我が家系の美徳。
だから俺は、ホグワーツに入学してからもひたすら目立たない事をモットーに生活してきた。
そして、これからも、そうやって生きていくのだと信じていた。
全てが変わったのは、ホグワーツ三年生に上がる前の、夏休み半ばのある日。
8月8日。
その日は俺の13歳の誕生日だった。
元々祝い事をするような家族でもないし、俺自身も重要視したこともない日だったから、いつも通りの一日を始めようとしていたんだ。
だけど、ベットから起き上がると同時に感じる違和感。
三度確認してから、俺は慌てて両親の元へと急いだ。
そんなこと、あるわけない。
起きたら、女の体になっているなんて。
しかし俺の淡い期待は、あっさりと打ち砕かれることになる。
我が楢川家は、男系家族。
もとより女児が産まれることは希にもなく、もし産まれようものなら呪いの子として殺されることもあるという。
そこに産まれたのがまさかの女児。それが俺だ。
焦った母は、出産直後にも関わらず、俺が楢川家から独立する事の出来る年齢……13歳まで、男子として生きていけるよう魔法をかけたのだと。
誰も、そう、本人ですら疑うことのないような完璧な魔法を。
そして、時は満ち。
俺は女に戻る日を迎えた。
信じられないままその話を聞いていた俺に、両親は最終宣告を言い渡したのだ。
「ユラ。貴方の体が男に戻ることは二度とない。これからは女性として生きてゆきなさい」
両親の言葉は俺にとって絶対。
戸惑いは消えることなく。
その日から俺は、女としての生活を送ることになったのである。
(11/08/28)
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