追いかけて、




黒髪が風に靡く。


いつだって、彼は凛として美しい。


私には彼の横に立つ能力(チカラ)なんてないから。

いつも後ろから、見ている事しか出来ないんだ。


 ―――……。


「……またオマエか」


任務地に現れたエクソシストの開口一番は、そんな感じだった。


「なんかすみません」


私が選んで来たわけじゃないのだけれど、彼の顰めっ面を拝んだらなんとなく謝ってしまう。

なのに彼…神田サンの眉間の皺は深くなるばかりだ。


「……チッ…」






自分の身は自分で守れ。


初めて任務で一緒になったときに彼に言われたこと。

そんなの当たり前だと思っていたから、元気よく返事したら変な目で見られたのを憶えている。

私はあくまでも探索部隊だ。

エクソシストの任務を邪魔する行為なんてもってのほか。
邪魔になるくらいなら、いっそアクマに潔く殺されるべきだ。

簡単に死ぬ気はないけども。


教団に入ってから、ずっとそう思って生きてきた。






だけど。
神田サンは前回の任務で、アクマに殺されかけた私を、死なせなかった。


「…ボーッとしてんじゃねぇよ!!」


確かに、死を覚悟したあの時。

風を斬る刀の音と共に、霧散したアクマを目の前に。
飛び散る誰とも知れない肉片や血飛沫を目の前に。


もう、私の目には、彼の漆黒しか映っていなかった。






「前みたいなヘマしやがったら、今度は死ぬぜ」


「百も承知です」


深い深い黒に、私は誓ったんだ。


彼のために生きて、彼のために死のうと。



不意に暗闇を見つめていた神田サンの視線が、私をとらえた。



「……簡単に死ぬなよ、楢川…」



「……っ、はい!」



駆ける黒髪を、私はまた追いかける。


死が、私を包み込むまで。








――――――――――
神田すきだー。黒髪がすきだー。
(11/07/18)


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