007
「ユラ、ここにいたのか」
リュウキュウに帰ればもうクリスマスは間近だ。
戦いの傷が残るハコダテの街を見下ろしていたら、後ろから声を掛けられた。
耳に馴染む柔らかい声音で、振り返らなくても声の主が分かる。
「タクト……」
「……心配することはない」
「え?」
隣に並んだタクトは、私の方を見ることなく告げた。
「ヨウスケはあれでいて、芯の強い男だからな」
でも、それ以上に、ヨウスケは優しすぎる。
言いかけた言葉を、冷たい空気と共に飲み込む。
タクトはきっと、分かっている。
ヨウスケがレゾナンスを強制解除された原因を。
そして、レゾナンスの危険性も。
それでも。
彼は、戦うことを止めはしないのだろう。
凛とした横顔に、私は再び視線をハコダテの街へと向ける。
「私にも、……何か出来ることがあればいいのに……」
「ユラ」
落とした呟きを聞き逃さなかったらしいタクトが、はじめて私の方を向いた。
「君は、気づいていないようだから、言っておくが……」
白い肌が、僅かに朱を帯びて見えたのは。
私の都合の良い見間違えだったのか。
「リュウキュウで待っている「おかえり」があるから、僕たちはより一層「帰らなければ」と強く思うことが出来るんだ」
(13/1/3)
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