『水色curtain3』
七瀬君との時間はとても穏やかに過ぎていった。
お土産コーナーでグッズを物色していたら、不意に後ろから覗き込まれた。
七瀬君特有の甘い香りに、距離の近さを感じる。
「迷っているのか?」
「あ……はい、イカくんかタコくんかで」
「俺にはどっちもあまり変わらないように見えるけどな」
クス、と声を出して笑う彼は学校にいるときより、況してやライブ会場でみた姿とは別人のように雰囲気が柔らかくて。
特に、私の気のせいで無ければ、この水族館を回っている途中から彼を纏う空気がより一層穏やかなものに変わった気がする。
「……七瀬君は、B6の皆にお土産とかは買われないんですか?」
「……、あいつらにお土産を買うくらいなら貯金する」
「あはは、七瀬君らしぃ……」
「!まさか楢川、買うつもりか?!」
「え?」
言いかけた言葉を遮って尋ねられ、思わず振り返ってたら。
少し焦った表情とぶつかった。
不思議に思って首を傾げれば、彼の表情が苦虫を噛み潰したみたいな苦悶のものへと変化していく。
私がB6の皆にお土産買うのがそこまで不味いことなのかな。
「…………」
「……あの、」
「正直、あいつらにバレると、面倒だと思ってな」
「……?」
「いや、何でもない……というかあいつらに土産を買ってやるくらいならその金をもっと自分のために使えいや寧ろそうすべきだああそれがいい」
真顔+ノンブレスで言いきられ、私は首を縦に振るしかない。
そのリアクションに満足したのか、七瀬君はにっこり笑った。
普段見ない満面の笑顔に戸惑い、そのままその話は靄がかってしまった。
そしてすっかり日も落ちかけた帰り道。
七瀬君と二人並んで歩く姿を、よく知る人物に見られていたなんてそのときの私は知るよしもない。
(12/12/28)
[ 94/189 ]
[*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]