『水色curtain2』
「……」
「……」
チラと横目に楢川を見れば、柔らかい表情で水槽のなかを見つめている。
会話は決して多くはないが、心地の好い沈黙。
やはり私服姿はいつもより少し大人びて感じる。
ヒラリと揺れる袖口から、小さな手が覗いているのが見えて。
学園祭のときのことを思い出した。
迷わず俺の髪に触れた彼女。
タオル越しに感じた手の温もりまで一緒に思い出してしまい、僅かに顔に熱が集まる。
雑念を振り払うように額に手を当てれば、すぐに楢川が反応した。
「……頭、痛いんですか?」
「いや、大丈夫だ何ともない」
彼女は人の変化に敏感だと思う。
よく気づき、配慮を怠らない。
それは意識的なものか否かは定かじゃないが。
「もし体調が悪かったらムリせず言ってくださいね」
そう言って此方へと向けられた笑みに、心が解されていく。
気がつけば、彼女に触れていた。
「あぁ……ありがとう」
突然頭を撫でた俺に一瞬驚いたように目を見開いたが、それははにかんだ笑顔へと変わる。
心臓が、大きく音をたてた気がした。
(12/12/28)
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