006





正直、半分くらい期待していた。

このまま、何も起こらないんじゃないかって。



でもそれは都合の良すぎる考えだったと、モニター越しに意識を失ったヨウスケを見て自分の甘さを実感した。

アキラさんはタクトにヨウスケを助けるように指示する。
一瞬だけ、彼女が此方に視線を送ったことに気づいた。
一番近くにいた甘粕君が、声を掛けてくれる。



「楢川さん、」

「大丈夫、気にしないで、甘粕君」

「ですが……」

「皆は、まだ、戦ってる」



無意識に震え出す体を叱咤する。
くらくらと揺れる視界を保つ為に拳を強く握った。

ホントにツラいのは誰?
少なくとも、私じゃないでしょう?

自分の心に言い聞かせて。
モニターをキツく見据えた。










ヴォクスに運び込まれたヨウスケに駆け寄ると、彼を抱えていたタクトと視線がぶつかる。
初めて見る、戦場に置ける彼の瞳の鋭さに、僅かに息を飲んだ。

だけど、それはフッと緩んで。



「ユラ、心配するな。ヨウスケに外傷はない。それに……直ぐにカタをつける」



ふわりと頭に触れた手は大きく、温かく。
迂闊にも目頭が熱くなる。
こんな場面で私が泣いてどうするんだ。



「タクト達が無事に戻って来るの、ここで待ってるから」



そう告げた私に口角を上げて見せると、タクトはまた外へと向かった。



近江君がヨウスケを横になれるトコまで運んでくれる。
「じゃあ俺、戻ります!」と爽やかに走っていく彼を見送って、簡易ベッドの隣に佇む。

苦し気に眉を寄せるヨウスケに何か出来ることはないかと思案するも、結局、手を握るくらいしか思い付かなかった。

熱すぎるほどに熱を帯びた手に触れれば、ピクリと僅かに反応がある。



「……ヨウスケ」

「……、ユラ…」



譫言のように名前を呼ばれ、心臓が鷲掴まれたかのように痛んだ。

こうなること、分かっていたのに。

ヨウスケが、苦しむこと。



「ヨウスケ、ごめん……ごめん、なさいっ……」



懺悔するように握り締めた拳に額を当て、呟く。

何度も、何度も。





不意に、握り締めていた両手が動いた気がして、ビクリと身体を起こせば。
額に汗を滲ませたヨウスケが、うっすらと目を開けていた。
青い綺麗な瞳が、此方を見つめて。
薄い唇が、微かに動く。





「……ユラ……泣くな……」



笑っていてくれ。





涙こそ流れていなかったけど。



ヨウスケの言葉に、私はくしゃりと笑ってみせた。










(12/12/17)



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