『capriccioな君へ』
近付いたと思えば、離れていく。
まるで、日本のコトワザにあるキツネごっこだな。
……イタチごっこだな。
違うぞ。
今のはワザと間違えたんだ……!
学園祭が近づくにつれ、ユラと話す機会が減っている気はしていた。
だがそれはあくまでも偶然だと思っていたし、俺以外のB6が彼女とよく話していてもきっとタイミングの問題だと思っていた。
いや、ただそうだと信じたかっただけなのかもしれない。
校舎内にある休憩所でユラと瞬が話しているのを見かけたのは、ついこの間の話。
あの二人はたまに一緒に居る。
基本的に女子を毛嫌いしている瞬が気兼ねなく会話できているのは、きっと彼女のpersonalityがそうさせるのだろうと自然と笑みが浮かんだ。
だが、その笑みは、向き合う彼らの表情を見て固まる。
なぜ、二人して頬を染めている?
何を話しているのかまでは分からないが、互いに顔を赤くさせる二人はまるで端から見れば……そう。
「恋人同士……」
そう考えた自分が信じられず、俺はその場から直ぐに立ち去った。
何故かその後も断続的に続く心臓の痛みに、永田に医者を呼ぶように指示をすれば。
困ったように笑った永田は俺にこう告げた。
「翼様の症状は、きっとどんな名医でも治せないものだと思われますよ」
「What?……どういうことだ?」
「治せるとすれば、翼様ご自身か……ユラさん、でしょうか」
意味が分からない。
そう訴えれば、ユラと直接話せと言う。
ここは永田を信じて彼女と話してみようと思ったのだが、ここにきて。
自分から呼び止めようと決めて、確信した。
ユラに避けられている。
それに気づいた俺は酷く狼狽えた。
そして学園祭当日に目にした、瞬と彼女の仲睦まじい姿に心臓が壊れるかと思うほどの軋みを感じたんだ。
呼び掛けられた、あれほど望んでいたはずの声を無視せざるを得ない程。
平静ではいられなかった。
視界から外れた所で、ユラが泣きそうに表情を歪めていたなど気づくこともなく。
自分の痛みばかりを隠したくて、俺はその場から逃げ出した。
(12/12/16)
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