『早朝Secret』
目が覚めたら人様のお家のベッドでした、とか。
自分で自分を殴りたい。
即刻リビングにいた草薙君に滑り込み土下座したら爆笑されました。
そもそもソファで寝ていた私をベッドまで運んだのは自分だからと。
快活に笑う彼に二割増しで恥ずかしかったのは内緒だ。
寝顔を晒した挙句、軽い訳でもない体を運ばせてしまったなんて。
外はまだ薄明かりが差し始めたばかりのようで、鳥の囀ずりが聴こえてくる。
何はともあれひとまず帰って準備しないと。
学園祭当日に何をしているんだ。
お借りした洗面台でザッと身なりを整えて、草薙君にもう一度お礼を言いに戻る。
「ほんとにお世話になってしまって、このお礼は後日改めて……!」
「ははっ、気にすんなって!ゴローとかもう自宅並の寛ぎっぷりだし」
「あ、おはよーっユラちゃん。ちなみにゴロちゃん今は貴重な寝起きショットだよん」
ガタタッ!!
「ったぁ……」
ソファで優雅に寛ぐ風門寺君の姿に、思わず芸人のようにすっころんでしまった。
そのネグリジェは一体いつどこから……。
色々ツッコミたいことはあるけども、とりあえずは自宅に戻ることを優先しよう。
「じゃあ、失礼します……また後ほど」
「ユラ」
え……?
「あ、は、はい……?今の、草薙君、ですか?」
唐突に名前を呼ばれ、首を傾げた。
草薙君って、私のこと名前で呼んでいただろうか。
固まっている私にはにかんだ笑顔を向けて。
彼は柔らかい声で告げた。
「気をつけて、送ってやれなくてごめんな。何かあったら近くの猫にゃんに助けを求めるんだぞ」
ぎゅっ、と一瞬だけ繋がった指先の体温に少しだけ戸惑いながら。
なるべく平静を装い、私は草薙君の家をあとにした。
(12/12/8)
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