『Midnightの幻』
なんでこうなった。
俺ん家のソファで各々夢の世界へ旅立ってしまっている女のコ二人……いや正しくは女のコは一人だけど。
とにかくそんな二人を見て、現状が理解出来ずに俺は頭を抱えた。
翼も見当たんないし帰ろうとしていたところをゴローに捕まったのは放課後のこと。
珍しく楢川が一緒にいて、どうしたのかと尋ねれば曖昧に微笑まれてしまった。
そのままゴローが「前祝い」をすると、お菓子やら飲み物を買い込んで俺ん家に来て騒いで……。
そのまま、寝ちまったのか?
やべぇ。
てか、いま、何時だ。
「……ん、」
「!!」
ソファの手すりに俯せるように眠っていた楢川が、不意に身動ぐ。
思わずビクリと肩が跳ねて。
ゆっくりと振り返れば、彼女も緩やかに身を起こしているところだった。
どうやら目が覚めたらしい。
「……くさ、なぎ、くん…?」
まだ意識がはっきりしていないのか、ぼんやりと此方を見つめてくる姿に鼓動が速まる。
助けを求めるようにゴローに視線を送ったが、完全に寝ていた。
「あれ……ゆめ、でしょうか……?」
俯いた楢川の声が不思議と暗く感じて。
俺は無意識に彼女の頬に手を添えていた。
「……何か、あったのか?」
柔らかく潤んだ瞳のなかに、俺が映り込んでいる。
それだけのことが酷く嬉しくて、でもなぜか切なくて。
このまま目を反らして欲しくないと、強く思った。
その思いが通じたのかは定かじゃないけど、不安気に揺れる彼女の目は此方を見つめたまま動かない。
「……、ユラ……」
自然と口から出たのは。
ずっと呼ぼうか迷っていた、彼女の名前。
両の頬に添えていた手を、ゆっくりと後ろに回せば。
ことりと、ユラのおでこが俺の胸に当たった。
抱き締めて、はじめて。
自分の想いを自覚する。
「……好きだ……」
「…………」
当たり前のように言葉が溢れて。
背中に回した腕に僅かに力を籠める。
けど、彼女からはなんのリアクションもなくて。
不安になって覗き込めば。
「……、寝てんのかよ……」
気持ち良さそうに眠っているユラに、複雑な心境になる。
自覚した途端にこの距離感とか。
試されてるのか俺は。
甘い香りが鼻を擽る。
普段じゃ絶対に見られない安心しきったその頬に、そっと唇を寄せた。
「つぎは、起きてるときにちゃんと言うから、な」
(12/12/8)
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