『優しくamabile』
まぁ、冷静に考えたら。
七瀬君が私に告白するとかあり得ないってことくらい分かったはずだよね。
モブが一端に勘違いするところでしたよ。
衝撃のあまり固まっていた私に気づかず、七瀬君は事情を話してくれた。
商店街の福引きで水族館のペア招待券を当てて、イマジネーションを得ることにもなるし行くのも悪くないと考えたけど券はペア。
即ち誰かを誘わなければ。
そこで以前のエコバッグの一件でのお礼を兼ねて、私を誘ってくれたらしい。
「でもお礼なら……」
「ライブには客として普通に来ただろう、楢川は。今回は間違いなく“俺から”の礼だ」
「七瀬君……」
「だから、別に、俺がオマエを誘いたかったとか一緒に出掛けたかったとかそういう訳じゃないから勘違いするなよ……!」
「はい!それは大丈夫です!」
「…………」
真壁君にも似たようなことを言われたことがあるし。
さっきの告白紛いなシチュエーションでだいぶ懲りた。
一瞬、南先生のことが頭に過ったけど。
前回のこともある。
折角誘って頂いたのだからと、私はまっすぐ七瀬君を見つめ返した。
「私で良ければ、お付き合いさせて頂きます……水族館」
返ってきたのは照れたような笑顔で。
やっぱり真壁君のときも、最初から素直に厚意を受け取っていればよかったと。
頭の隅で、思った。
(12/12/7)
[ 86/189 ]
[*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]