黒塗りの愛情論




「オイ、いつまで人の寝床占領してやがる」



ばしりと叩かれた頭を押さえて振り返れば、視覚に厳しいピンク色が佇んでいた。

というかイエスのお家(仮)だもんね。
いるよねそりゃ。



ちなみに彼は周りからドSだの暴君だの言われてるけど、正直、私から言わせてもらえばツンデレ以外の何者でもないと思う。

冷たい態度を取りつつも、実はさりげなーく朝飯の準備とかしてくれてるの気づいてるぞ。



「ごめんってば怒んないでよ、だってこのソファきもちいんだもん」

「むしろいつまでココにいるつもりだ……いい加減出てけ」

「えぇ〜やだよ〜、てか今帰るとこないし」



ソファに四肢を伸ばしてダラダラしてみせたら、あからさまに顔をしかめられてしまった。

でも帰るとこないのガチだから。
友達の家に長期で居座るのもアレだし、第一女子同士の付き合いにはイロイロとあるのだ。
それに今は泊めてくれる優しい彼氏様もいないもの。

それを伝えたら、イエスの表情はますます歪んだ。



「チッ……じゃあさっさとその優しいカレシ様とやらを捕まえて、俺の前から消えろ」

「えぇ〜、それはムリ。あと私しばらく彼氏つくる気ないからよろしく!」

「あァ?……テメェ、ふざけてんのか?」



ピリピリと此方を見下ろしてくるから、私はやっとこ立ち上がる。
視線が自然と近づく。

笑顔絶やさず、彼の眉間を人差し指でツーンッてしてやったら明らかフリーズしたのが分かったけど気にしない。



「だって私が出ていったら、イエスがココに帰ってきたときに出迎えるひと、いなくなっちゃうでしょ?」

「…………は?」



イエスが、独りに慣れないように。



「心配しなくても、イエスが彼女連れてきたらソッコー出てくから安心して!」

「…………」



私はいつでも笑っていよう。





ほら、ここで照れて目を反らすんだもの。
素直じゃないんだから。





「という訳でとりあえず朝ご飯頂きます」

「……、オイ」

「んー?なにかなイエスくん……って、ぅ、わ!」



テーブル席に移動しようとしたら思いっきり腕を引っ張られる。
いっそ清々しいまでの痛さなんだけど。
とか考えが頭を過っているうちに、バランスを崩した私はイエスの胸へとダイブした。



「ちょ、はな、打った……」

「ユラ」






あ。



実は会ってはじめて名前で呼ばれたかもしれない。





顔を上げれば、予想外に優しい表情のイエス。





「……うぜぇ女」





言葉と態度が一致してないぞ。

っていうのは、今は抱き締められて機嫌が良いので言わないであげようと思う。










――――――――――
イエスには伊織とかハマーくらい振り切れたコがいいと思う。
(12/12/4)

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