Restfulness
優しい香りがする。
N印のトリートメントの香り。
私はいつの間にか眠っていた事に気づき、慌てて目を開けた。
「…っああ…!」
「……っ!?な、なんだ急に…起きていたのか?」
唐突に奇声を上げた私を、驚いた様子でNが振り返る。
彼の手元に視線を向けると、愛用の道具達が片付けられているのが見て取れる。
どうやら作業は終了したらしい。
自分の甘さに思わず顔をしかめる。
そんな私に気づいたNが、眉を寄せた。
「……どうした?ユラ」
二人のときだけ、Nは私を名前で呼ぶ。
その声も、表情も、大好き。
髪に触れるときの彼が、一等すき。
任務後は、自分への御褒美に、必ずNの所へ向かう。
何だかんだ言いながら、彼は私の髪を愛でてくれる。
私の、大切にしたい、ひととき。
なのに。
「…違うの、ネイサン。…いま、起きたの……つまり、いちばん肝心なポイントで寝てた、ってコトよ……」
がっくりと椅子に項垂れる私に、呆れたようにNが声を掛ける。
「別に問題ない。いつものようにヘアケアはしておいた。しかも寝ていたなら、髪だけではなく体も休養できただろう」
いつもと変わらず淡々と告げるN。
幸せな時間は、もう終わり。
じきに私は、ユラから、一人のストライカーへと戻る。
いくら長期任務で疲れていたからって、Nとの時間を睡眠で削ってしまうなんて。何て不覚。
「……おい」
「なに……、っ?!!」
俯いていた私は、Nが予想以上に近づいている事に、全く気づいていなかった。
整った顔が間近に迫り、衝撃を受ける。
「ぇっ、えええNっ?!ち、近……っ?」
最後まで言い切る前に、彼の綺麗な指が、髪を掬った。
その仕草は、まるで慈しみすら感じる程に、優しくて。
一瞬で、目を奪われる。
「……、ネイサン?」
でも、指先の優しさとは裏腹に、その表情は不安気で。
思わず名前を呼ぶと、Nは静かに言葉を紡ぎ始めた。
「俺は…髪(これ)しかお前を喜ばせる術を知らない……。だから、そんな顔をされたら、どうすればいいか分からなくなる…」
「……っ!」
髪を扱うときの器用さが信じられない程、不器用なひと。
それに、何て優しいひと。
彼との時間を終わらせたくなくて。
一緒にいる理由が欲しくて。
私はそっと、彼の手に自分のそれを重ねた。
少しだけ、我が侭を聴いて?
「ネイサン。…今から、髪、セットしてくれない?…そのあと、一緒に食事に行きましょう」
瞬間、面食らった様な表情をしたNだったけど。
返ってきたのは、笑顔の「yes」だった。
――――――――――
メトポリの中ではNがすき。
(11/07/15)
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