露草の君へ




新撰組(ここ)では一隊士として青年のように振る舞う彼女だが、その姿貌はあまりにも美しくて。
僕はいつも傍に行くことすら戸惑う。

他の隊士達と同じように。
いや、それ以上に多くの浪士達を切って棄て、拭い去れぬほどの血潮を浴びてきたはずの彼女は。
いつまでも褪せぬ光を携えているんだ。



「ユラさん」



珠のようなその肌に唇を這わせたら、貴女はどんな表情を魅せてくれるんですかね。

着流しの襟元から覗く鎖骨に、わずかばかりの不穏な考えが過る。

だが僕のそんな感情などツユとも知らぬ彼女は、躊躇いなく此方へと近づいてきた。
目の前に立てば同じ人斬りとは思えない、甘い香が鼻腔を擽る。



「沖田君、体調は?」

「……やだなぁ、貴女までそんなこと聴くんですか?何ともありませんよ、見ての通り」

「昨日初めて、土方さんから池田屋でのきみのことを聴いたんだ」



土方さん、余計なことを。

心配そうに僕のことを窺う姿が弄らしくもあり、悔しくも思う。



僕は、いつだって貴女に認めてもらいたいのに。
貴女の隣に立ち、背を預けて戦えると思ってもらえるほどの男になりたいと、想っているのに。





「ユラさ……」



零れかけた言葉は、ユラさんの小さくも強い口調に遮られてしまった。



「沖田君は、……もっと自分を愛してあげるべきだよ」

「……え?」



その言葉の意味が、全くといっていいくらいには理解できなかった。



自分を、愛してあげるだって?



「……このような場所だし、きみには立場もある。だから自分を大切にしろとは言えないけどね」



僕に触れる指の冷たさが心地よく目を細めたら、彼女は優しく微笑んだ。



「きみはきみが思う以上に、皆に愛されているのだから」





その「皆」のなかに、貴女がいるのなら。

僕にとってそれほど幸福なことはない。



少しでも、想いの破片が彼女に刺さるようにと。
僕は頬に添えられた細くて白い手を握り締めるのだった。










(12/12/1)


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