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本当に私は何も出来ない。
ハコダテから帰って来た彼らに、私は掛ける言葉が見つからなかった。
物語は、否応なくシナリオ通りに進んでいく。
――選択をするのはキミではない。
石寺長官の言葉が、頭を過った。
結局、皆に「おかえりなさい」の一言しか言えないまま、一日が終わって。
ぼんやりと廊下を歩いていたら、少し先に見慣れた姿を見つけた。
「……よォ」
「!……、ヒジリ君……」
「……」
月明かりに照らされて、彼の表情が憂いを帯びていることに気づいてしまった。
立ち止まったまま動けずにいる私に微笑んで。
そっと彼の腕に囚われた。
「……悪ぃ……俺、何もできなかったわ……」
「……っ」
謝るのは、私の方なのに。
私の自己満足のせいで、ヒジリ君は感じなくてよかったはずの罪悪感を感じるはめになったのだから。
肩口に額を押し当てて、彼は深く息をついた。
「……ユラは今まで、こんなキッツイのを独りでどうにかしてたのかよ……」
「……え、?」
伏せられた顔からは表情は読み取れない。
「……情けないことついでにさ、もうちょい、こうしててくんない?」
ただ、触れる体温が、すごく熱く感じられた。
(12/11/1)
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