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ユラは以前から自分のことを何かと後回しにしてしまうところがあった。
ここ半年程はそれに輪を掛けるように更に自分の事を話さなくなった気がするのは、僕の気のせいではないだろう。
彼女の謙虚な姿勢や、細やかな気配りには好感が持てる。
傍にいて不快な想いをするものはいないだろうし、寧ろ緩和剤のような存在だ。
だが彼女はライダー候補生ではない。
ユラが、危険に曝される理由が、あってはいけないんだ。
だから彼女とは一定の距離を保っていたし、彼女もそれを理解してくれていると思っていた。
だが、ヒジリやヨウスケは、違った。
ヨウスケは元々ユラを妹のようだと可愛がっていたから、距離を置きたくないという心情が分からなくもない。
解せないのはヒジリだ。
ユラの警戒心が弛いとはいえ、LAGに来て間もないヒジリとそんなにも早く打ち解けるものだろうか。
あとやたら構いすぎではないだろうか。
そう思ってしばらく様子を伺っていたが、ある日を境に、彼の態度が微かに変化した。
あの夜、ヒジリとの会話を、ヨウスケとユラに聞かれた日からだ。
ヨウスケたちがあの場を去った後、追いかけようとした僕を呼び止めて、ヒジリは告げた。
「ハンパに関わってんのはどっちか、よく考えたらどうよ?俺は……結構マジでユラを守るつもりだけど」
そう、不敵に笑った。
つまり、そういうことなのだろう。
僕は、彼女が笑っていられるなら、それ以上は望まない。
だから。
「つーかタクト。いつまで見てるワケ?悪いけど俺、そうゆー趣味ねぇから」
「……なっ、ふざけるな!そんなもの僕もない!」
「……だいたいユラからの電話の報告とか、嫌味かよ……」
ボソリと呟いた言葉は僕には聞き取れなかったが。
恐らくコイツもコイツなりに、彼女との距離を模索しているのだと思う。
南の地で僕らの帰りを待っているだろうユラのコトを。
それぞれが各々のカタチで、守ろうとしているのは事実なんだ。
(12/11/1)
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