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何でヒジリ君は怒ってしまったのか。
というかそもそも怒ってたのかすら定かじゃないのだけど。

考えても分からなくて、気になることが一つ増えてしまった。



普段は必ず誰かの声が聴こえてくるはずのLAGだけど、今は誰もいないから。
ただ一人でいつもの浜辺で過ごすばかりだ。



ヒジリ君がよく歌う曲を思い出して口ずさむ。

波の音に混ざって消えていく声が、まるで今の自分自身みたいだと少し笑みが零れた。



不意に上着のポケットに入れてた携帯が震える。



「……ぁ、」



一瞬、ヒジリ君かと思ったけれど、それはタクトからのもので。



「もしもし…?」

『ユラ、変わりないか?』

「うん。ていうか、たった二日で変わってたらそっちの方がビックリだよー。タクトの方はどう?」

『そうだな……正直、想像以上のハコダテの寒さに驚きを隠せないな』



真に迫ったタクトの口調に思わず笑えば「笑い事じゃない」って怒られてしまった。



「だってヒジリ君も似たようなこと言ってたから……」

『ヒジリから連絡があったのか?』

「うん、昨日。……ねぇ、タクト」

『どうした?』

「……、」





一瞬、昨日のヒジリ君の声が頭に過って。



言い掛けた言葉は宙に消えた。



「……風邪、ひかないようね」

『大丈夫だ。僕に限って体調を崩すなどあり得ない』

「あはは、皆にもよろしく伝えておいて?」

『あぁ。……、ユラ』

「ん?」



少し高めの、タクトの声が私を呼ぶ。



『……無理はするな』





彼の言葉が、波の音に紛れて、優しく私の中へと流れ込んだ。










(12/10/30)



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