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第三十一話「触合」





ヒジリ君がエピフォンとのレゾナンスに成功した。
これで彼も、戦場へと繰り出されるライダーの一人になったんだ。





メンテナンス室でエピフォンの歓迎会をするんだ、と。
フェルが張り切っていたのは翌日のコト。

答えるときに巧く笑えていたかなんて自信はない。










いつもの浜辺で波の音に耳を澄ましていたら、砂を踏む音がして無意識に体が強張った。

いまは誰とも会いたくないのに。



「ユラ、何してんの?」



出来れば砂と同化でもしてしまいたい心境だったけど、彼はそれを許してはくれず。
振り返らない私を気にもせず隣に座る。



「泣いてるかと思った」

「泣いてないよ」

「残念だわ、泣いてたら俺の胸で慰めてやろーと思ってたんだけどな〜」

「ありがとう」

「リアクション薄っ」



少し強めの視線を送ってもやっぱり軽く往なされてしまう。

仕方ないから発言を止めた。





彼は特に気にした様子もなく、そのまま歌いはじめる。

静かな、波に重なるようなバラードが鼓膜を震わせた。








本当は十分理解しているつもりだった。

あのとき、ヒジリ君の元へ駆けつけたところで邪魔にしかならなかっただろうことも。
役に立つ立たない以前に、私と云う存在がイレギュラーであることも。
それが原因で物語を歪曲させかねないということも。



でも、あのとき私は、それを全て忘れてヒジリ君の元へ向かおうとしたんだ。



不意に歌声が止まり、彼がこちらを向いたのに気づく。
私も少しだけ、顔を上げた。
横目に、褐色の肌が掠める。





「……知ってたのか?」

「え、……?」

「俺が、エピフォンとレゾナンスできるって」





氷水を、全身にぶちまけられたみたいな。

心臓が縮みあがり、呼吸が一気に早まる。





ちがう、

チガウ、違う、ちがう。



わざと、黙っていたんじゃないの。

知っていて知らないふりをしたわけじゃないの。





ヒジリ君が、薄々気づいていることに、気づいていたはずなのに。

私は彼の視線がこわくて、ことばを発することができなかった。





スルリと、長い指が頬を撫で。
流れるように顎を掬い上げられる。



くいと持ち上げられた顔が自然とヒジリ君へと向けられ、その瞳と出合う。



「……アンタは、いっつも哀しい顔、してるな」

「……ぇ……」





そっと目元を撫でた彼の手の優しさに、無意識に涙が伝った。








貴方は、私を否定しないでいてくれますか?










(12/10/24)


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