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第三十話「霧靄」
久しぶりに一人の夜を過ごしていた時だった。
響き渡るレッドアラートが、いやに心臓に響いたのは。
ジッとしていられなくて、私は部屋を飛び出した。
「ユラちゃん?!」
「……っアキラさん、行ってください!」
廊下の突き当たりで彼女の姿を見つけて、引き留めてはいけないと促す。
意が伝わったらしく、彼女はヴォクスへと向かって迷わず走って行った。
反対に自然と止まった足。
彼女がここにいることが示す、物語の進行。
それと同時に、彼のコトが頭を過る。
「……ヒジリ君……、っ!?」
無意識に外に向かおうとした私を、戒める腕があった。
「何処へ行くのかね?」
「い、石寺長官……?」
冷めた視線に含まれる遠慮ない猜疑と敵意。
うまく呼吸をすることさえ忘れそうなそれに、私の動きは完全に封じられた。
「……選択をするのは、キミではない」
彼の一言一言が、鋭いナイフのように私を刺す。
「余計なことは、しないでもらおうか」
言い聞かせるように発せられた言葉は、私の心の脆い部分を抉るのに、十分な脅威を秘めていた。
(12/10/23)
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