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第二十九話「境界」





最近、前みたいにヨウスケが傍にいることが増えた気がする。
元々ヒジリ君が来るまでは一番近くに居たのは彼だったんだ。

この世界に来たばかりの頃から変わらない、私の感情をまるごと受容してくれるかのような優しさ。

私なんかを、好きだと言ってくれたヨウスケ。



驚きと、喜びと、戸惑い。



全部がごちゃ混ぜになって、私は自分の心を持て余していた。




いま、私がヨウスケに抱いてる感情は。



きっと。










「美味いか?」

「ん……っ、うん!」



覗き込むように此方を見つめるブルーの瞳に頷いてみせれば、フワリと無表情が崩れた。

なんとなく目を合わせられずに、真っ赤なTシャツの文字に意識を集中させる。



「そうか、デザートもあるから」

「……ありがと」

「あ」

「え?」



不意にヨウスケの腕が此方へ伸ばされ、唇の端に指が触れた。

固まったまま一連の動作を見守るしかできない私に彼はいつもと変わらない様子で。



「ついてた」



そう言ってペロリと自分の指先を舐める。



カッと体温が一気に上昇して。
音をたてて椅子から立ち上がると、自然とヨウスケが私を見上げる形になる。

なぜ不思議そうな表情なのかが不思議でしょうがないよ!

私の心の叫びは伝わることなく、同じように立ち上がったヨウスケから肩に手を置かれ、そっと座るよう促された。



「デザート持ってくる」





その背中に届かないくらいの息をついて、私は自分の手に目を落とす。



確かに前から唐突に触れられたりすることはあった。
でもそれは、あくまで友達だったり兄妹みたいな関係間に成り立つスキンシップだと思っていたから。

彼の気持ちを知った今、私は彼の優しさを受け取りかねている。

でも、拒絶もできずにいる。



拒否するには、近づきすぎたんだ。



全てはヨウスケとの関係性を、崩したくない私の我が儘。










(12/10/10)


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