『夏色cotton candy2』
「な、なんだあれは……?」
「え?もしかして真壁君、綿あめ知らないんですか?」
このやりとり、実は既に5回目になろうとしているけど……彼は気づいているのだろうか。
出店の横を通る度に立ち止まって興味を示す真壁君は、どうやらお祭り初心者らしい。
その都度解説してる私は、まるでお祭り観光案内みたいになっている。
リアクションが楽しいから全然いいのだけれど。
「あれはザラメ……お砂糖をあの真ん中のところに入れたら周りの部分に溶けて糸状になった砂糖が出てくる仕組みなんです」
「成る程、それをあの木の棒に巻き付けているというワケか……!」
宝石みたいな紅い瞳をキラキラさせて、大きくなる綿あめを見つめる真壁君。
そんな彼を見てると、自然と笑みが浮かぶ。
「フワフワして甘くて美味しいんですよ。私、だいすきです」
「……っ!」
「……?どうかしましたか?」
突然驚いた表情で振り返られて不思議に思って首を傾げると、すぐに視線を外した彼はそのまま綿あめの出店へ歩みを進めた。
「お祭りのときは小銭がいりますよ」と前以て伝えていたのを覚えていてくれたらしい。
以前見た金色のカードは顔を出すことなく綿あめの袋をひとつ受け取った真壁君が此方へ戻ってくる。
「……受け取れ」
「あ、ありがとうございます。お金……」
「要らん。驚くほど安値で手に入ったからな。それに……」
巾着から財布を出そうとした手を止められてしまった。
今度はまっすぐに視線が絡む。
「好きなんだろう?」
その笑顔に、心が大きく揺さぶられた。
(12/9/30)
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