『夏色cotton candy』



紺色の地に紅い金魚が游ぐ風流な浴衣が家に届いたのは、夏祭りの三日前のこと。

断ったのに、真壁君はやはり有言実行な方だった。

せっかく届けて頂いたものを無視するのも逆に失礼だと自分に言い聞かせ、真新しい浴衣に袖を通せばあつらえたかのようにぴったりで。
姿見に映る自分になんとなく頬が弛んだ。





そして、夏祭り当日。








「…………」

「……わぁ」



待ち合わせ場所に現れた真壁君も綺麗な浴衣姿で、思わず声が漏れた。
元来の顔立ちの良さとモデルをされているからか完璧な着こなしで、いつもより更に洗練されたような美しさを感じる。
男性なのに、女性よりよっぽど綺麗で艶やかだ。

逆に彼は無言でいるから何か着方とかがおかしかったのかと不安になる。



「真壁君、浴衣お似合いですね」

「はっ?!あ、あぁ……」

「あと、私の分まで用意してくださって……ありがとうございました」

「……」



なぜか返答がない。
困って少し覗き込めば、弾かれたように身を離す真壁君。



「……ぃ」

「……え?」

「……っユラの浴衣も悪くないと言ったんだ!」

「は、はいっ!素敵な浴衣をありがとうございます!」



急に大きな声を出されたから、つられて同じくらいの声量で返事をしてしまう。



「いや、浴衣が……じゃなく……ユラが……」

「……?」

「……なっ、なんでもない!行くぞ!!」

「えっ、あ、真壁君……っ?」



顔を反らしたままの彼が呟いた言葉は私には届かなかったけど。

繋がった指先から伝わる体温が、私に「隣にいてもいいよ」と言ってくれているように感じられた。










(12/9/30)


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