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第二十五話「星空」
あの夜、彼が何を告げようとしたのか。
何事もなかったかのように去ってしまったから、真意はわからないままだった。
そして、そのことが別の所で新たな火種となっていたなんて、私は知るよしもなく。
「ヨウスケー、お疲れさま!」
「ああ、ユラ」
訓練を終えたばかりのヨウスケを捕まえれば、いつもの笑顔が返ってくる。
彼は一見無表情みたいだけど、よく見てると意外と表情豊かだと思う。
「もう夕方だな……夜ご飯は食べたのか?」
「まだだよ、皆は?」
「先に行った。俺は教官から少し話があるからって呼ばれてたんだ」
「タクトも先に?」
「……、あぁ。俺たちも、行こう」
意識せずに出た問いかけに、ヨウスケの表情が僅かに陰ったことに……その時の私は気づかなかった。
食堂には既にユウジとヒロしかいなくて、ヨウスケと夕飯を食べた。
そんな寮への帰り道。
「……あ、見てよヨウスケ!外、空!」
「……あぁ、星がすごいな……」
窓から見える満天の星空。
秋の風がどこからか入り込んで。
夏の終わりを告げる。
隣に立ったヨウスケの精悍な横顔を盗み見てたら、ふと蒼の双眸が私に向いた。
「……ん、どうした?」
包み込むような優しい声。
全てを晒けだしても、赦されるんじゃないかと、錯覚しそうになる。
そんなとき、ふと何かに気づいたみたいに、ヨウスケの視線が動いた。
「……?何か、聴こえないか……?」
「え?」
辺りを探るように動く視線を追って、私も周囲を見渡す。
確かに、耳を澄ませば廊下の先から話し声のようなものが聴こえてくる。
そしてそれは聴き馴染んだ声で。
「タクトと、ヒジリ君……?」
姿こそ見えなかったけど、すぐに二人だと声で分かった。
珍しい組み合わせだとヨウスケと顔を見合わせ、そちらへと近寄る。
間が悪い、とはこのことを言うのだろう。
「ヒジリ、君は……彼女のことをどう思っているんだ?」
タクトの真に迫った声。
私は、一瞬で心が凍りつくのを感じた。
(12/9/11)
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