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第二十三話「循環」




I's監視下に置かれ、毎日が自室警備員状態の私だけど、唯一外に出られる時間があった。



「んーっ……潮風が気持ちいい……!」

「そりゃよかった」

「今日は月も綺麗だねぇ」



それはヒジリ君が担当の間。
彼は特に止めないので私はお気に入りの浜辺に出られる。

ヒジリ君も有無を言わせずついてくるけど、外の解放感もあってか特に気にならなかった。





不意に少し離れた場所にいる彼が歌い出す。

私は砂浜に腰を下ろして聴き入った。



切ないバラード。



彼の優しい声と相まって、心が揺さぶられる。



ヒジリ君は、アキラさんの為にLAGへ戻って来た。
それは、一度喪ったものを、取り戻すため?……それとも。





「……ユラ」

「……ぇ、あ、なに?」



名前を呼ばれて、意識が浮上する。

ヒジリ君が不思議そうに此方を覗き込んでいた。



「や、ボーッとしてたから。何?俺に見惚れちゃってた?」

「……どっちかと言うと、聴き惚れてた」

「……っ、……アンタってイキナリ爆弾放り投げてくるよな」

「?」



わしゃわしゃと頭を掻く彼に首を傾げる。



少し悩むように夜空を仰いで、ゆっくりと息を吐く。

月明かりに照らされた彼がすごく遠く感じた。



立ち上がり、傍に寄り添う。
上手い言葉なんていっこも見つからなかったけど、振り返った表情は優しかった。



「ユラは、なんつぅか……空気みたいだわ」

「……え?それって存在感がないってこと……?」

「ははっ、ちげーよ」

「えぇ……?」



首を傾げる私の頭を撫でると、ヒジリ君はまた笑った。





「傍に在るのがアタリマエだけど、なくちゃ生きてけねー、みたいな?」





冗談めかして告げた彼の瞳が、まるで冗談の色を含んでいなかったから。



私は恥ずかしさのあまり俯いたのだった。










(12/09/10)


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