ミエナイ鎖
「カミュ。キスしていい?」
「ふざけるな」
真っ白な頬に触れる勢いで尋ねたら、ずっごい厭な顔をされた。
伸ばした手もヒラリと避けられてしまう。
決して強い力ではなく、あくまで優雅に、けれど拒絶を潜ませて。
「ふざけてないわよ。カミュがあんまり美しいから、つい」
負けじと笑顔を返せば、彼の整った顔が微かに歪む。
その表情を見ると、僅ばかりの優越感が心に染みを作っていくんだ。
「もうすぐ本番だ、集中しろ」
「少しでも気分を高揚させておきたいじゃない」
「オマエの言い分は理解しかねるな」
「そうかしら?」
カミュがもっともっと、私に影響されてしまえばいいのに。
美しい華が、毒に染まるように。
「ねぇ、カミュ……」
「……チッ」
しつこく食い下がる私の顎を、カミュの白くて長い指が掬い取った。
「……ん」
次の瞬間には、薄くて繊細な唇が、私のそれに重なって。
「ん……ふぁ……っ、カ、ミュ……」
「黙れ」
少し口を開けば、カミュの舌がスルリと入り込んでくる。
くちゅり、と音を立てて口腔を侵される。
甘美な刺激に脳と身体が熱を持ち始めた。
だけど。
それも永くは続かない。
「……ぁ、」
名残惜しむコトもなく唐突な終わりを告げたキスに、カミュを恨めしげに見上げたら、悦に入った笑いが返ってきた。
「ご満足頂けましたか?姫」
アイドルのときの胡散臭い笑顔と口調で尋ねられ、咄嗟にNOの返事をすれば。
心底どうでもよさそうに「それはそれは」と視線すら外されてしまう。
「どうしたら貴方が私のものになるのかしら……」
「笑わせるな。ユラ」
「結構本気なんだけど」
台本から上がることのない瞳を横から見つめて呟いたら鼻で笑われた。
それでもきっと、私はいつまでも貴方の名前を呼ぶ。
「カミュ」
ねぇ、お願い。
私に跪いてよ。
――――――――――
カミュさま熱がやばい。でもよく分からない。
(12/9/7)
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