その一言で



「お前の歌からは何も感じねぇんだよ」





自信があったはずのオーディションで、彼はおれの顔を見ることなく告げた。



なけなしのプライドは、ズタズタに引き裂かれた。









「楢川、どうした?テレビを睨み付けて」

「……聖川」



寮の談話室で歌番組を見てたら、通りかかったらしい聖川が声を掛けてきた。

コイツとは学生時代からの付き合いだ。

ソファに体操座りで縮こまるおれに訝しげな表情を浮かべるものの、隣に腰掛けてくる。



「……黒崎さんじゃないか」

「……そうだよ。おれが以前受けたオーディションの、審査員だったひとだ」



四角いハコのなか、圧倒的な存在感を放ち、オーディエンスを魅了する男。



黒崎蘭丸。



おれたちにとっては事務所の先輩。

そして、忘れもしない、おれの歌を否定した人物。



「ああ……前に言っていた……」



言葉を濁す聖川に、できるだけ不自然にならない笑顔を向けて、おれはソファから立ち上がる。



「おれ、ちょっと出てくるわ」

「こんな遅くにか?」

「大丈夫、今日中には帰ってくっから」






暗い敷地内をブラつきながらも、頭の中には彼の声がこびりついて。

苛立ちや焦燥がない交ぜになって、おれは半ば自棄クソに歌をうたった。



なにを目指して、なにがしたくて、なにが欲しくて。

おれはここにいるのか。



全部を声に乗せて、歌った。








「ちゃんと魂込めた歌、歌えんじゃねぇか」

「……っ黒、崎さん……?」



後ろから掛けられた声に驚いて振り返れば、先程、画面の中で輝いていた彼の姿。

でも、その表情は幾分柔らかい。
そして、綺麗なオッドアイが、まっすぐに此方を見据えていた。



「あ、あの……」

「あ?」

「……いえ、なんでもありません」

「はぁ?」



ほんとは、色々聴きたかったけど。



今は、黒崎さんがおれを見てくれた事実があれば、それでいい。





「おれ、ぜったいに貴方のとこまで行ってみせますから」

「……っ!面白ぇ。だが俺は同じ場所で待ってなんかいないぜ?」




絡んだ視線。
昂る心。



うまれてはじめて、感じた感情。



この人に、辿り着きたい。

この人に、負けたくない。










――――――――――
黒崎先輩まじ心のイケメン。
(12/9/3)

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