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第二十一話「飽和」
「……どうしたんだ?傷が痛むのか?……すぐに救護員を……」
「だっ、大丈夫!大丈夫だから!唯でさえ大変なときなのに私なんかのせいで時間とらせたらダメ……」
「……っ、ユラ」
「は、はい」
踵を返して出ていこうとしたタクトを呼び止めたら、いつもより低めの声で名前を呼ばれる。
驚いて返事をすれば、少し怒ったような瞳とぶつかった。
「……ユラ。君は……自分自身が、どれほど周りに影響を及ぼす存在なのか、自覚が足りないんだ……っ」
「……え、?」
ベッドで半身を起こした状態のまま、視線を上げる。
正面に向き合ったタクトの瞳の光の強さに、目眩がしそうで。
苦し紛れに顔を伏せれば、先程と違う、柔らかい声が降ってきた。
「少なくとも、僕はユラの存在を“なんか”で済ませられるほど、軽んじてはないつもりだ」
「……?」
内容を把握し損ねて、無意識に首を傾げてしまう。
窺うように再び彼を見上げれば、今度は逆に目を反らされてしまった。
「……つまりっ、……僕にとって、ユラは……、そっ、そういう事だ!!」
「えぇぇっ?ど、どういう事?!」
自己完結されたよ。
もう怒ってはいないみたいだったけど、タクトの言いたいことはイマイチ分からないまま。
側頭部をそれなりに強く打ったらしく、まだ暫くは安静にしておくよう言い残して、彼は足早に去って行った。
(12/8/19)
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