『Richmanの価値観3』
あのあと、真壁君と近くのカフェに入った。
物珍し気にしている彼と席につくと、さっきと同じような質問をされる。
「……、楢川はなぜ怒ったんだ?」
純粋に、疑問を投げ掛けられている感じ。
「真壁君。人って驚くほど価値観が違うものだと、私は思うんです」
「……価値、観」
「例えば、真壁君にとってすごく大事なものが、他の人にとってはそうではなかったり」
「……」
「そして、今回はその逆でしたね」
真剣な表情で私の話に耳を傾けてくれている彼は、やっぱり悪い人じゃない。
だから、ちゃんと話せばわかってくれるはずだ。
「価値観がズレたとき、自分のそれを通すばかりじゃなくて、私の気持ちに寄り添って欲しかったんです」
「気持ちに、寄り添う……」
「はい。私が大切に思っているものを、簡単に否定しないで欲しいんです」
「……!」
驚いた表情をしたあと、真壁君は考え込むように目を伏せた。
綺麗な紅の瞳が、テーブルをジッと見つめている。
程無くして、その瞳は私へと向けられた。
「楢川の言いたいことは、何となく分かった気がする。……だが、もしかしたら、俺はまた……同じことをしてしまうかもしれない」
「その時は、言います。真壁君がこうして聴いてくださるなら、何度でも言います」
「……!呆れたりしないのか?」
綺麗な眉根が、ぐっと寄る。
心配そうに歪められた顔。
何だか、よくわからない焦燥にかられた。
「私だって、真壁君に嫌な想いをさせること、あると思います」
「What?」
「おんなじ、ですよ」
テーブル越しに彼の大きな手を握る。
「だから……いっぱい話して、共有、させてください。貴方の、心や想いを」
こうして向き合えることが必然ならば。
もっと知っていきたいと思うから。
(12/8/11)
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