『Richmanの価値観2』
放課後。
楢川をDinnerに誘おうと呼び止めたら、断られた挙げ句なぜか怒らせてしまった。
アイツは何が気にくわなかったんだ。
家に帰ってからも何か引っ掛かったままでスッキリしない。
長い間考え込んでいたがやはり納得いかず、直に楢川に尋ねようと外に出たら、マンションの前でまさかの遭遇をした。
「真壁君?……えっと、こんばんは」
「あ、あぁ……というか、なぜ、ここに居るんだ?」
「バイト帰りですよ。バイト先、この先のファミレスなので」
歩いてきたらしい道を指し説明する楢川は、特別怒った風もなく。
至っていつも通りだ。
なぜかそれが無性に腹立たしくて、俺は彼女に詰め寄る。
「お前は、怒っていたんじゃないのか」
「え?」
「去り際に、この俺に向かって「不愉快だ」と言っただろう」
そうだ。
この真壁翼に向かって。
常人では考えられないようなことを言い放ったんだ。
それなのに。
「ああ、そういえば」
楢川ときたら、平然と述べる。
「その様子だと、私が怒った理由が分からないままみたいですね」
困ったように微笑む彼女からは、やはりもう怒りは感じられない。
「真壁君。夜も遅いですが……よかったら、少しお茶でもしませんか?」
「Tea?」
「はい」
先程まであんなにも憤っていたはずの心が、楢川の笑みと、触れられた手を介して解けていく。
俺はただ、そんな自分に戸惑いながら、少し先を歩く彼女に続いた。
(12/8/11)
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