秋風ひらり


見上げたらどこまでも真摯な黒。

感じる風が冷たくて、秋を感じた。





「正面から抱きしめられたい」

「えっ、と……。突然、だね」


委員会の仕事中に可笑しな発言をしても、彼は笑わずに聞いてくれた。

幸村君は本当に優しい人だ。

そして戸惑う表情も素敵だ。


「秋の空気ってさぁ、なんとなく刹那さを滲ませてる気がしない?」


脆くて、危うい空気。
そんな秋の日が私は大好き。

なんとなく彼なら同調してくれる気がして、尋ねてみたのだけど。

「フフ」と、どちらかと言えば冬に咲く艶やかな華を連想させる笑みを浮かべた幸村君は、机に片肘をついて此方を見つめた。


「一般的に、人肌が恋しくなる季節と言われるよね」


瞳が、仕草の一つ一つが、色っぽくて見とれてしまう。

そんな私をどう思ったか分からないけど、一瞬の内に、彼との距離が詰まって。
紺色の緩やかなウェーブが頬を掠めた事でその近さを覚る。


「黒河さんも、人肌が恋しいのかな?」


笑顔でなんてことを聞くんだ。

まぁその通りなんだけど。



ここで頷くとどうなるんだろう。

それを確かめたい欲求に駆られる。


「……恋、しい……です」



「フフ。じゃあ、俺が暖めてあげる」


フワリとハーブのような香りが鼻を擽って、幸村君の動きの優雅さに見惚れていると、正面から優しく抱き締められてしまった。


「……ゆ、ゆゆ幸村、くん……っ?」


期待はしていたけどまさか本当に抱き締めてくれるとは思わなくて、動揺を隠せない。


肩越しに、笑う気配がした。


「……この役目、他の男に頼むのはやめてくれよ。黒河さんが望むなら、俺がいつでも抱き締めるから」

「……っ」


恥ずかしすぎて、その言葉の真意を尋ねることは今は出来なさそうだけど。

どうやら、包み込んでくれるこの温もりに、私は全力で身を委ねてもいいらしい。





前よりももっと、秋が好きになった。








――――――――――
誰でもいいから抱き締められたい(ただしイケメンに限る)
(11/10/09)

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