満心
いか焼きまじうまい。
花火を見上げながら呟いたら、隣の男は鼻で笑った。
聞こえたのか。
「沙紀」
「なに?跡部」
浴衣姿でいか焼き食べてる私が、彼の目にどう映ってるかなんて知らない。
だけど、私の名を呼ぶその声は、すこぶる楽し気に聞こえた。
「汚すなよ」
然り気無くハンカチを膝の上に乗せられ、ビックリして跡部を見る。
なんという自然な動作っぷり!
そういう意味を込めて見つめたら、呆れた顔をされてしまう。
「跡部ってさ、ほんと坊っちゃんだよねぇ……」
「……あーん?」
花火の合間に会話してるもんだから、すごくテンポが悪い。
なんかおかしくて笑いが込み上げる。
「ううん。普通って幸せだなぁ…と」
「…俺様にはわかんねぇな」
「お家でも花火上げられるくらいだからね、跡部ん家は」
普通の町の普通のお祭りの打ち上げ花火。
それを跡部と二人で眺める。
彼は自宅でもよかったんだろうけど、私が誘ったら一緒に見に来てくれた。
それだけで、私は幸せなんだよ。
「……まぁ、沙紀が笑っていればそれでいい」
「…最高の口説き文句ですね、跡部さん」
私も、跡部が笑っていればいいと思う。
お互いの幸せ感覚が違くても、きっと二人が笑顔なら。
真ん丸浮かぶ月を隠すような、艶やかな華を見上げ、私達はそっと手を繋いだ。
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氷帝のリスバンタオルあてた(笑)
(11/07/27)
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