浴衣



「いやいやいやいや…これないわムリだわ着れないわ」


「沙紀、まさか約束、破るつもりなん?」



「……!!!」



「一緒に、浴衣デートしよなって約束」


三日前の自分、まじ居なくなればいいのに。


とか思っても後の祭り。


てか今日がそのお祭りだけどさ。


いい笑顔の蔵を見ると、変に意識してる自分がバカみたいだ。


差し出された濃紺の大人びた浴衣を受け取って、私は踵を返す。


「浴衣姿みて、こっ、後悔しても知らないからね!」


よくわからない捨て台詞を残して、隣の部屋に移動する。

覚悟を決めて、私は着替えを始めたのだった。


 ―――……。


「う、わ……」

「……!」


く、蔵が着れって言ったから着たのに!

うわ、って……!!


「っ、だから似合わないって…」

「あかんわ、沙紀のこの姿、独り占めしたい」


「……えっ?」


一見細く見える蔵だけど、強く引き寄せられたら一堪りもない。

ぎゅぅって私の背中に回された手に力が籠る。


「く、蔵っ!浴衣、の帯、崩れるから!!」


恥ずかしさのあまり抗議するけど、少し開いた彼との隙間に、意地悪な笑顔が垣間見える。


「……俺のために着てくれたなら、俺が脱がしてもええやんな?」


「……ばっ、な、なななにアホなこと言ってんの!今からお祭り行くんでしょ!?」


「……ちっ」


ちょ、まさかの舌打ち?


だけど、次に浮かんだ満面の笑顔に私も自然と笑みが溢れる。



「ほな、可愛い彼女を、他のヤロー共に見せびらかしたろかな」



ほんと、恥ずかしい台詞をサラリと言ってくれる。


そんなあなたが。








[ 155/202 ]

[*prev] [next#]
[mokuji]





「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -