浴衣
「いやいやいやいや…これないわムリだわ着れないわ」
「沙紀、まさか約束、破るつもりなん?」
「……!!!」
「一緒に、浴衣デートしよなって約束」
三日前の自分、まじ居なくなればいいのに。
とか思っても後の祭り。
てか今日がそのお祭りだけどさ。
いい笑顔の蔵を見ると、変に意識してる自分がバカみたいだ。
差し出された濃紺の大人びた浴衣を受け取って、私は踵を返す。
「浴衣姿みて、こっ、後悔しても知らないからね!」
よくわからない捨て台詞を残して、隣の部屋に移動する。
覚悟を決めて、私は着替えを始めたのだった。
―――……。
「う、わ……」
「……!」
く、蔵が着れって言ったから着たのに!
うわ、って……!!
「っ、だから似合わないって…」
「あかんわ、沙紀のこの姿、独り占めしたい」
「……えっ?」
一見細く見える蔵だけど、強く引き寄せられたら一堪りもない。
ぎゅぅって私の背中に回された手に力が籠る。
「く、蔵っ!浴衣、の帯、崩れるから!!」
恥ずかしさのあまり抗議するけど、少し開いた彼との隙間に、意地悪な笑顔が垣間見える。
「……俺のために着てくれたなら、俺が脱がしてもええやんな?」
「……ばっ、な、なななにアホなこと言ってんの!今からお祭り行くんでしょ!?」
「……ちっ」
ちょ、まさかの舌打ち?
だけど、次に浮かんだ満面の笑顔に私も自然と笑みが溢れる。
「ほな、可愛い彼女を、他のヤロー共に見せびらかしたろかな」
ほんと、恥ずかしい台詞をサラリと言ってくれる。
そんなあなたが。
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