雨歌



今日は天気予報が大ハズレ。

折角の精市とのデートなのに、昼前から雨が降りだしてしまった。

雨を避けるようにショッピングモールに入ったけれど、あまりの人の多さに再び屋外に脱出した私達。

今は一つの傘に肩身寄せ合い、駅の方へと歩いていた。


「大丈夫?濡れてない?」

「フフ、そんなに強い雨じゃないから心配ないよ。沙紀こそ大丈夫かい?」


こうやって、気を使わせるから雨の屋外デートは好きじゃない。

少し落ち込みかけていた私の耳に、ふとピアノの音色が聴こえてきて、思わず立ち止まる。

自然に精市も立ち止まった。


「……聴こえる?」

「…あぁ、……ラヴェルかな?」

「ええ、雨の日にこの曲なんて…洒落てるわね。誰が弾いてるのかしら?」


そういって聴こえてくる音に耳を澄ませる。

音源を辿ると、近くのカフェにアップライトが置いてあるのが目に止まった。

どうやら女性が演奏しているようだ。


雨音に重なるように、ピアノの音色が響く。


「……雨の外出も悪くないわね」

「沙紀の口からその言葉が聞けたのが、今日の一番の収穫かな?」


そう言って柔らかな笑顔を向けられ、頬が熱くなるのを感じた。


「…折角だから、入ってみようか」


笑顔のまま問いかけられ、私は小さく頷いた。





雨のメロディを聴きながら、貴方との時間を。








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ラヴェルの水の戯れが好きです。知らない方は是非。
(11/07/01)

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