雨に潜む花
「おまえさん、まるでその花に恋をしとるみたいじゃ」
それは、彼が初めて彼女に声を掛けたときのこと。
振り向いた彼女の困ったような笑顔に、彼の『興味』は淡い『好意』へと変わっていく。
―――……。
「沙紀、もうすぐ雨が降る。さっさと屋内に戻るぜよ」
「わっ、仁王、いたの?」
「おまえさんが屋上に入ってきたときにはおったな」
「声掛けてよー」と笑う沙紀を見ていると、つられて笑顔になってしまう。
こんなところを部活の連中に見られでもしたら、それはもう大いにからかわれるだろうな…と仁王は頭の片隅で思った。
こんなにもリラックスした隙だらけの状態を、彼女以外の前で晒せるわけもない。
しかし、不意に彼女の視線の先を追って、顔が強張る。
「……、またその花を見とったんか」
無意識に語調が強くなったが、沙紀は気づかない。
「うん、綺麗に咲いたなぁ…って。……幸村君の育てた、花」
初めて見たときと変わらない慈しむような笑顔で、彼女は告げる。
それが仁王の機嫌を悪化させるなんて、考えもせずに。
「私、植物とか詳しくないから…あんなちっちゃな蕾だったのに、ちゃんと花になるんだねぇ……」
「……あぁ…」
初めから、なにも変わらない。
幸村に好意を寄せる彼女に、興味をもった。
そしてその『興味』が、間違った方向に形を変えただけ。
ただ、それだけの話だ。
何の変哲もない花に見入る沙紀を、仁王は一定の距離を保って見つめる。
その距離は、彼にとっての安全圏内だった。
「……仁王?どうしたの、怖い顔して」
「……っ」
それなのに、彼女は簡単にその領域を侵してくる。
抑え込んでいた何かが、自分の中から溢れてくるような感覚を留めようと、仁王は一歩後退る。
だけど、それだけでは、足りなかった。
「……沙紀はいつまで叶わん想いを続ける気じゃ?その花と幸村を重ねて見ても、沙紀の想いはアイツには届かん」
一度溢れた思いは歪んだ言葉になって、止まることなく彼女に向かう。
全てを言いきったあと、仁王はしまったと顔を上げた。
「仁王には、わからないよ」
二人の間に、小さな雨粒が一つ。
波紋が広がるように、雨は強さを増していった。
――――――――――
初におサン。なのに悲恋というorz
(11/07/01)
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