絶対領域



「……あぁっ、…や…だめ…っそんな…!…」



「………。黒河、オペラグラス片手になにエロい声出してんねん…」

「……ちょ、煩いです忍足!いまイイトコロなん……っあぁ!今の見まして?!跡部様の腹チラ!!!」

「…………。ココ突っ込んだ方がええ?」


 ―――……。


皆さん。
大変お見苦しいトコロをお見せしました。申し訳ございません。

改めまして、私、氷帝学園三年の黒河沙紀と申します。
何を隠そう、麗しの跡部様ファンクラブ会員No.003とは私のことですわ。


「いや…、今更取り繕ォても遅いやろ」

「お、忍足!モノローグにツッコミを入れるのは止めて下さらない?!」

「せやかてなぁ…自分面白すぎるわ」

「…なっ!!」


この歩くR指定のような彼…(おま、それはないやろ!)…忍足は跡部様のご学友であり、私の裏の顔を知る貴重な存在でもあります。

あのような取り乱した言動が、財閥の一人娘である者に相応しくないことは分かっているのですが…

跡部様を見るとつい我を忘れて狂乱してしまうのです。


「……今日も気高く、美しく、そして雄々しいお姿…。私、眼福の極みですわ…」


隣で忍足が笑うのが分かりましたが、特に何も思いません。

こうして、跡部様の自主練の御様子を遠くから拝見できるのも、全ては彼のお陰なのですから。


「……忍足は、…」

「ん?なんや?」


ふと、前から気になっていた事が頭を過り、私は彼に向き直りました。
此方を見つめるその姿は、跡部様と互角の艶やかさを醸し出しています。


「…忍足は…なぜ私にこの場所を教えて下さったのですか…?」


問いかければ、妖しく微笑まれ。
一瞬、私の奥の方に潜む“なにか”が蠢くのを感じました。


「……分からへん?」

「…っ…、分からないから…こうして、尋ねているんです……」


少しだけ、彼との距離が縮まります。


「ホンマに?全然??」


また、少し。


「……全然、分かりません…」


歩み寄ってくる彼から、私は目が反らせず。


「……分からんフリしとるんとちゃう?」

「そんな…、…!」


カシャン…と、手にしていたオペラグラスが床へと滑り落ち、咄嗟にそちらに視線を移した瞬間でした。


「…ほな、分かってもらうよう、そろそろ行動に移さなあかんなぁ…」



引き寄せられ、捕らえられたのは、きっと躯ではなく、心の方。



いつからか私は、貴方の罠に嵌まっていたのですね。








――――――――――
珍し系のヒロイン目指して挫折。
(11/06/20)

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