願いごとひとつ



「き、……今日三回目の凶っ…」

「ぶはっ…!ちょ、黒河おま、逆にすげーな!」

「丸井、アンタねぇ〜っ…人のコト笑えるような結果だったわけ?!」

「俺は天才的に本日三回目の大吉だぜ?」



こいつ……!





本日はお日柄もよく、最高の修学旅行日和だ。

私の心境を除けば。


一日目の京都。
なぜか行く先々で凶のおみくじを引き当てる私に、丸井以外の班員達は哀れみの視線を送り出した。

いや本当に意味が分からない。

今回の修学旅行で、憧れの幸村君と距離を縮めるんだと張り切っていたのに。
旅行前から丸井ファンの女子たちに「ほんとはアンタ、ブン太のこと好きなんでしょ?旅行中まで同じ班なんてまじウザい」とか言われても笑顔でやり過ごせるくらい楽しみにしてたのに。
二日目の幸村君との合同班に全てをかけるくらいの勢いだったのに。

なにこの幸先の悪さ。
神様、私、何かしましたか。


「黒河さん?」


そう、こうやって何度も彼に呼ばれるシュミレーションだってしてたんだから。


「……黒河さん」

「はいぃ?!」


ぽん、と優しく肩に触れた手に過剰反応して振り返ると、脳内シュミレーションなんかじゃなく、本物の幸村君が立っていた。


「……え、あれ、えぇ?」


固まる私に柔らかな笑みを浮かべたまま、彼は自然と手を取ってくれる。


「ここじゃ参拝の方の妨げになるから」


まるで貴公子みたいにエスコートしてくれる幸村君から、目が離せない。

素敵すぎる。


「フフッ…それにしても、随分と真剣にお祈りしていたね」

「あ、う、うん…」


脳内シュミは塵ほどの役にもたたなかったらしい。
まともに受け答えすら出来ないのが恥ずかしくて、手の中に握ったままになっていた凶みくじをクシャリと握り締めた。


「……あれ?それ、ここのおみくじかい?」

「え…!そ、そうだけど…、私、ここで三回目の凶なんだよ!…笑っちゃうよね!」


まさか幸村君がその存在に気づくとは思ってなくて。

手の中でくたびれているおみくじをなんとか笑いのネタにしようとしたけど、どうやら失敗したようだ。
彼はしばらく無言のまま視線を私の左手に向けていた。


「…黒河さん、ちょっと左手かしてくれる?」

「へ?」

「あぁ、そのおみくじはこの辺に結んで……ハイ、左手」


有無を言わせぬテンポで凶みくじは近くに結わえられ、私の空いた左手は、幸村君の両手に包み込まれた。


「……っ!」


重なった手が温かくて、顔は熱くて、私は羞恥のあまり俯きかける。
少しだけ掠め見ると、彼は何かを祈るように、優しく微笑んだまま目を閉じている。

その姿はまるで神様の使いみたいで。
彼が神の子とかスゴイ異名を持っているのが、何となく理解出来た気がした。


「………。黒河さん、もう一度おみくじ引いておいでよ」

「は、はい!」




その後、私が見事に大吉を引き当てたのが幸村君の神がかったパワーのお陰なのかは…神のみぞ知る。








――――――――――
十年ぶりの清水寺で、姉妹揃って凶をひきました。かなしすぎる(笑)
(11/06/16)

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