年下の。(前)
事の発端は、仁王が年上の女性と付き合っているらしいという、とことん私には関係ない話題からだった。
「私は敢えての年下彼女だと思うんだけどね」
とか言ってかなり食いついてるけど。
「まじかよ!」
こっちはクラスメートの丸井。
話に食い付くというか、お菓子に食らいつきまくっている。
つかいま飛んだぞ。
「なんで年下と思うんスか?」
「女の勘」
もう一人、この場に居合わせた丸井のテニス部の後輩…切原クンの質問にテキトーに答えたら、「「かっけぇー」」とよく分からない尊敬の視線を二人から送られてしまった。
第一、これが何の集まりかと言えば。
私にもよく分からない。
丸井はクラスメートで時々、新商品を掠め取られるトコから話すようになった仲で。
切原クンとは、そんな丸井繋がりで、何となく絡むようになった。
周りからは羨まれたり、恨まれたりと忙しいけど。
私自身、彼らとの時間が好きだから、周囲を煙に巻く感じで飄々と過ごしている。
「年下かぁ…確かに可愛いよな〜、がんばってる後輩とか」
「女テニの子とかね」
「そうそう、あの二年の……って、な、なななんで俺の話になってんだよっ!」
「動揺しすぎでしょ、アンタ」
別に丸井の好みなんて知ったことじゃないし。
って冷たい視線を送ったら、捨てられた仔犬みたいな顔するもんだから思わず「ごめん言いすぎた」と謝ってしまった。
恐るべし、丸井パワー。
「…ちなみに…、沙紀先輩は年上と年下、どっちが好きッスか?」
「は?私??」
不意に切原クンがそんな質問を投げてきたから、つい彼を凝視する。
するとがっつり顔を背けられた。
あ。なんかショックだ。
「…私は特にそういう拘りはないよ」
「けど、おまえ年下と付き合ったことナイだろ?」
「えっ?」
そう言われたらそうかもしれないが。
何故か驚いてる切原クンを他所に、呆れたように丸井を見やった。
「つか、そんな言うほどお付き合い経験はございませんが」
悲しいことに。
わざとネタにしたのに、丸井ときたらムカつくくらい爽やかな笑顔で「だよな〜」と言ってくれやがった。
すまんね、こっちはアンタらモテニス部とは違うんだよ。
不貞腐れて手近なお菓子を口に放り込んだ私を、切原クンが複雑な表情で見つめていたなんて、この時は気づきもしなかった。
(11/06/14)
[ 127/202 ]
[*prev] [next#]
[mokuji]