werewolfの黒い泪










月明かりに照らされて、彼の頬に伝う泪がきらりと光った。










『学園一有名な人はだれ?』

そう生徒に尋ねれば、全員が満場一致で跡部君の名前を挙げるだろう。

完璧なまでの容姿、財力、カリスマ性を兼ね備えた彼は天が二物も三物も与えてしまった所謂、雲の上の人物だった。

そんな跡部君と一般生徒である私が交流をもつことになったのは、ほんとに奇跡に近いと思う。



彼から告白され、私たちは付き合うことになった。



恋愛に関しては冷めているのかと思っていた彼だけど、私の予想はいい意味で全くと言っていいほど裏切られ。
何においても私を優先して、尽くしてくれた。

そして、そんな彼に私もいつしか夢中になっていった。





「……沙紀、好きだ……愛してる」





なぜか彼はいつも、呻くように愛を囁いた。

噛みつくようなキスも、愛撫も、日増しに余裕がなくなるように感じられ。
ある日私は彼に尋ねたんだ。



それが、この夢物語を終わりへと導く、切欠になるとも知らずに。





「景吾君……、どこか、調子でも悪い?」

「……あーん?なんだ急に」





ソファに気だるげに身体を預ける彼は、いつもより顔色が悪く見えた。

そっと手を差し伸べると、腰を抱き寄せられる。





「……何でもねぇよ」

「……そう?……、んぅっ……」





そのまま少し乱暴に唇を塞がれ、言葉は死んでしまった。



そして。





次の、満月の夜。





彼は月の明るい夜には私と会ってはくれなかったし、決して会いに来るなと念を圧されていたのに。



あまりにも彼の様子が気になって、私は無断で彼を訪ねてしまった。





扉を開けたときの、彼の絶望と悲愴に満ちたアイスブルーの瞳を。

永遠に忘れはしないだろう。





美しい彼の顔は歪み、動きを取れずにいる私の頚を鋭い両爪が捕らえた。

異形の姿の彼を見ても、頚から血が流れようとも。
恐怖は感じず、ただひたすらに哀しかった。




「おまえだけには……っ知られたく、なかった……!知られなければ、……愛し続けられると……っ」





約束を破ったせいで、彼との終わりが訪れたこと。
そしてそれ以上に、彼に絶望を与え、悲しませてしまったことが。



哀しくて仕方がなかった。





濡れる頬に手を伸ばせば、醜い姿となった彼の表情が、更に歪む。



声は。
もう出なかった。





ただ、伝えようと思った。










――あ い し て た










ぽた、と。

私の頬に一粒。

泪が落ちた。










――――――――――
日に日に募る、愛と殺意を。
(12/10/31)


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