滴る赤のVampire










「沙紀……」





美しい彼は、妖艶に微笑み。

そっと私の首筋に唇を寄せた。










去年の春。
桜が綺麗に咲き乱れる季節に私は、大切な人を喪った。

結婚してまだ半年。
元々体の弱い方だったから、いつでもと覚悟はしていたけれど。
あまりにも早すぎる別れだった。




でも。
涙が枯れるほどの月日が過ぎ、冬を迎える頃。

彼は、私の元へ帰って来てくれたのだ。





「……沙紀、会いたかった……」

「……精市、さん……?」





薄暗い小雨の降る夜に。
邸の門の横にある樹の下で私たちは再会した。

最初こそ信じられなかったけれど、抱き締めてくれる腕の力や、青白い肌の柔さ。
掛かる吐息の甘さが、間違いなく彼であると私に伝えていた。



何度も口づけを交わし、その時間を永遠のものにしようと。
ただただ精市さんに身を任せて。

翌朝目覚めたときにも、隣にある彼の姿に心から安堵した。



彼は外にこそ出なかったけれど、ずっと私の傍にいてくれた。





「愛してるよ、沙紀」





何度も優しく愛を囁いて、何度も甘い愛を与えてくれた。
それだけで、私は満たされていた。



そんな日が何日か続いたある夜。



精市さんはそっとベッドサイドの窓に凭れるように立っていた。

月の無い、闇に包まれた晩で。

ランプの薄灯りが、白い彼の肌を浮かび上がらせる。

ゆっくり彼へと近づいても気づいていないのか、彼は顔を上げない。





「精市さん……?」

「……っ!」





振り返った顔に、思わず息をのんだ。

彼の口許から、滴る鮮血。



慌てて駆け寄ろうとした私を、精市さんはすぐに制止した。





「沙紀、大丈夫」

「……、でも、精市さんっ……血が!」

「これは、俺の血じゃないんだ」

「……、ぇ……?」





ゆらり、と。

彼の姿が揺らいだ。



赤い血は拭われ、その唇には笑みが浮かぶ。



無意識に体が震え出す。



交わった視線を反らす間もなく。
腰に手を回され、強く引き寄せられた。





「……、沙紀」

「……ん、っぁ……!」





重なる唇から、錆びた臭いが漏れる。
唇を噛まれたのだと気づいたのは彼が少しだけ顔を離したとき。

視線すら外せないほどに、美しく。
精市さんは私から湧き出た紅い液体を掬い舐めた。





「沙紀……俺の可愛い沙紀」








近づいてくる彼の口元から、ぽたりと。
一滴の血が滴り落ちた。








「…………あいしてる」










――――――――――
愛惜の念に駆られ、蘇る。
(12/10/30)


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