近くて遠い
「おはよう、沙紀」
「……ん、おは…よ、せ、いち兄ちゃ……」
「フフッ、相変わらず朝が弱いんだね?」
「…………?!?!な!ななななんで私の部屋にいるの!お兄ちゃん……!!」
爽やかなハーブの香りと素敵な笑顔に、目覚めも最高。
とかないから……!
いくら妹の部屋とはいえ異性の部屋に無断で入るってどうなの。
「沙紀が呼んでも起きてこないから、俺がわざわざ起こしにきたんだろう?」
「頼んだ覚えはありませんーっ」
膨れっ面でそっぽを向けば、頭に乗せられる精市お兄ちゃんの手。
おっきくて人より少し温度の低いそれは、いつも優しく私に触れるんだ。
「女のコがそんな顔をするものじゃないよ」
「……!」
「まぁ……俺の前だけなら、特別、許すけどね」
深い意図がないのは勿論承知している。
だけどそんな綺麗な笑顔で「特別」、だなんて。
お兄ちゃんは罪つくりなひと。
二人の狭間の見えない壁を、私が必死で守ろうとしているって分かってるくせに。
(12/6/6)
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