狭間の距離
呼び出しを告げるコール音を遮るように、景吾は深いキスを落とす。
繰り返されるそれを「許さない」と云わんばかりに携帯は鳴り続けた。
「取ってあげたら?私、出とくし」
半ば投げやりに告げれば、案の定不機嫌そうに顔をしかめる。
そんなに嫌なら最初から電源切っときなさいよ。
「気にするな」
「アンタほど集中力がある訳じゃないの。煩いのよ、あの音」
アンタの婚約者サマの悲鳴みたいで。
そう伝えれば、渋々といった様子で私の上から退く。
さっさっと乱れた服を整える。
着信を受ける景吾を横目に、私は部屋の外へと向かった。
「沙紀」
「なに?早かったわね」
少し嫌味に笑えば強めに顎を上げられ、唇を塞がれる。
彼女との電話を終えたあとはいつもコレだ。
「……疲れない?そろそろ離れる?」
「……っ!沙紀、冗談でも、それは言うな……」
「フフ……ごめんなさい」
更に強く求めてくる景吾に優越感を感じながら。
そっとその背中に腕を回した。
ねぇ、景吾。
背徳の恋ほど、溺れて、浸り易いって……知ってる?
(12/06/27)
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