そっと微笑んで
浴衣姿の彼らから誘いを受けたのは、ほんの数分前の話。
「てかなんで皆して浴衣なの?」
「むしろ何で黒河は浴衣じゃないの?」
「いや聞き返されても……」
立海レギュラー陣に連行されて連れて来られたのは街から少し離れた浜辺だった。
何か準備してる赤也やブン太たちを遠目に、隣に座ってた幸村に問いかけると質問で返ってきた。
反対側の少し離れた場所から、仁王の笑い声が聞こえる。
「黒河、今日は近くの神社で夏祭りが開催されていたんだ。まぁそのことをお前が知らない確率は90%以上だったがな」
「誰か教えろよ」
後ろから清涼飲料水のペットボトルを差し出してくれた柳生にお礼を言いつつ、状況説明をした柳にツッコミを入れる。
全く気づかなかったし。
「本当は黒河さんも誘おうと思ったんですが……すみません」
「柳生とジャッカルは許す。でも柳と仁王は許さないから」
「理不尽じゃなか?」
「笑ったからね」
申し訳なさそうに告げる柳生とは違い、仁王と柳は完全に面白がってるだろ。
ペットボトルを弄ってたら、向こうから赤也たちが私たちを呼んでることに気付いた。
「てか、祭り終わったなら速やかに解散しなさいよアンタら」
「……まだ、黒河は祭りに参加してないだろ?」
「は?」
悪戯っぽく笑う幸村に、思わず首を傾げる。
立ち上がった彼から手を差しのべられ更に戸惑う。
促され立ち上がった私の元に、待ちきれなかったのか赤也が駆け寄ってきた。
「もーっ、なにしてんスか沙紀先輩!ハイこれっ、先輩の分の花火!」
手渡された花火をまじまじと見つめていたら、両手いっぱいに花火を手にした真田が声をかけてくる。
「あまり騒ぎすぎんようにな!」
「真田がね」
笑顔の幸村に手を引かれ、私はみんなの輪の中へと足を踏み入れた。
「黒河ってあんまり人ごみ得意じゃないだろぃ?」
「だから祭りのあとで、みんなで集まろうって幸村が提案したんだよ」
あとあとブン太とジャッカルが教えてくれた事実に、心があったかくなった。
来年は私も浴衣を着て、皆とお祭りにいくのも……悪くないかもね。
――――――――――
皆でほのぼのって、難しい。
(12/6/29)
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