紫陽花の君へ




穏やかに微笑んで。
見守るように。
貴方はいつも優しかった。



いつでも、優しかったね。







「……今日も雨だね」


教室の窓から外を見つめる精市に私は小さく相槌をうった。
梅雨があければ、本格的に彼らは大会に向けて活動を始めるのだろう。



でも、きっとその頃には。

私は彼の隣にいない。



「……あ」



呟いた精市が携帯を取り出す。

着信を告げる明滅に少し困ったように笑うと、席を立った。



「ごめん、ちょっといいかな……」



そのまま、廊下へと出ていく。
私はその背中をぼんやりと見送った。



精市と恋人同士になって、ちょうど一年が経とうとしている。
付き合いはじめたのは、彼の告白が切欠。
ただのクラスメートだった片想いの相手が、彼氏へと変わって。
知らなかった彼の素顔を、いっぱい知った。



知ったからこそ、感じる変化があるって、精市は気づいているのかな。



教室に戻ってきた彼は「マネージャーからの業務連絡だよ」と笑って告げたけど、私は上手く笑い返せただろうか。



移ろいゆく心を、止める術があればいいのにね。




――――――――――
独白。
(12/06/30)

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