傘、忘れた





「かいちょー、雨が降り出しましたよー、解散にしましょうよー」

「黒河……寝惚けてんのか、あーん?」



シットリとした雨の空気が、窓から入り込んで。
薄暗い雲が空を覆っている。

そういえば、傘を持ってきてなかったコトを思い出して会長に切り上げを提案したらバッサリ切り返された。

予想通りだったけど。



「だいたい副会長はもう帰ってんじゃん。なんで会計は帰れないよ?歌うよ?もう歌いだすよ私」

「支離滅裂すぎんだろ」

「帰りたい〜っ帰れない〜…ここはむご…!」

「黙れとりあえず黙れ。著作権とか色々あるから黙れ」



口を塞がれ、強制終了させられてしまう。
たぶん世代的にこの歌知ってる子少ないと思うけどな。



「てか会長、傘を忘れたので小雨の内に帰らせてください」

「……急に正直になったな」

「正攻法でいってみようと」



チラリと目線を向ければ、会長がため息を溢す。
これもいつものコト。

なんで会長は、こんな我儘な私を会計から外さないのか未だに謎だ。
……あ。我儘って自覚、ちゃんとあるんだよ。

でも帰りたいものは帰りたいんだから仕方ない。



「という訳で、お疲れさまでした」

「待て」

「ダメかー…然り気無さを演出したんだけどなー…」



鞄を手に取って踵を返したけど、あっさり腕を掴んで引き留められた。

渋々振り返る私に会長はもう一度ため息をついてから、でも、柔らかい声音で告げた。



「傘がないなら送ってやる。だから、ここに居ろ」

「あざっす!」



また、ため息。
幸せ逃げるぞ。



……思うんだけど。
つくづく、会長って私に甘いよね。





とかそんなことを考える私が、会長の真意を知るのは……まだまだ先の話。










――――――――――
跡部って自分のフィールドに入れた人間にはひたすら優しそう。
(12/06/27)


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