幸せ。
「精市」
「ん……なに?」
「……このままだと何の特別感もないまま3月5日を迎えてしまうんだけど」
一日デートを終えて精市のお家にお邪魔してから、完全にまったりモード全開の私たち。
もうすぐ、日付が変わる頃。
ようやっと本題を切り出してみた。
「とりあえずさ、何か欲しいものとかないの?」
「フフ、今更気を使わなくてもいいよ」
改まって尋ねる私に、精市はいつものように笑う。
今日が終わるまで、あと2分しかない。
「物欲ないよねー」
「沙紀に対する欲求なら山程あるけど」
「ちょ、どの顔で卑猥発言……?!」
相変わらずサラリととんでも発言をしてくれる。
そんな彼は読みかけの本をサイドテーブルに置いて、私に向き直った。
「俺にとっては、沙紀との時間が何にも代えがたいプレゼントだよ」
ちゅ、と優しく頬に口づけが落とされる。
精市の誕生日なのに私を喜ばせてどうするんだ。
見上げた先の笑顔は、いつもより一層穏やかで。
私もつられるように笑みを浮かべた。
「精市」
「ん?」
「在り来たりなことしか言えないけどさ……生まれてきてくれて、私と出会ってくれて、ほんとにありがとう」
だいすきの気持ちを籠めて、彼の唇にひとつ、口づける。
少しだけ驚いた表情が珍しくて思わず笑ってしまった。
携帯のアラームが、3月5日のハジマリを告げる。
もう一度キスを交わして、どちらともなく笑い合った。
「精市、ハッピーバースデー」
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もうすぐ3/5だよ!
(12/3/4)
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