想い積る



好きな人がいた。


不器用だけど、優しくて。
とてもとても大切な彼を、失いたくないと願った。


でも。
今となってはもう、それは叶わない願い。


 ―――――。


部活が終わって駅までの道のりを跡部と歩いていたら、急に買い物の用事があった事を思い出した。


「…あ、」

「どうした?」


ふとした呟きにも、すぐに反応を示してくれる。

テニス部部長の彼は、あんな派手なパフォーマンスをするわりに意外とほんとは誠実。

言ったら怒られそうだから、口には出さないけど。


「帰りに、買おうと思ってたものがあって…」


笑いながら言うと、彼も笑顔を返してくれる。

お互いの吐く息が白く染まって、冬の本番を感じさせた。


「でも、今日は雨が降るかもしれないし…」

「雪になるかもしれないぜ。寄り道はやめといた方が無難だろうな」


見上げた先には、どんより重たい曇天空。

いつもなら賑やかな大通りも、今日はなんとなくひっそりと静まり返っているような気さえする。

空の白さに見入っていたら、不意に跡部がこちらを向いた。


「なに買うつもりだったんだ?後で送り届けさせてやるよ」

「いやいや、いいよ!」

「遠慮するな」


至って真剣な表情に戸惑う。
彼なりの優しさなんだろうけど、そこまでして貰うのはいくらなんでも申し訳ない。


「本当に、大丈夫だから、ね?」


こっちも全力で見つめ返して告げれば、意思が伝わったのか、諦めたように跡部の視線が外れた。

ちょっと安心して息をつくと、白い息がすぐに空気に溶けていった。

あまりの寒さに、やっぱり彼の言うように雪が降るんじゃないかと思う。


「…黒河」

「……ん、なに?」

「……。…お前はもっと、欲張っていいんじゃねぇか?」


いつもより、少しだけ低い声音に、心が震えた。


「え、っと…急に、どうしたの?」


おどけて見せても、彼は微動だにしない。



本当は解ってた。
跡部の、言葉の真意を。





確かあの日も、こんな風に寒い冬の日だったね。



私が、大切なひとを、亡くした日。





病院からの帰り道。
偶然出会った跡部は、なにも聞かず、何時間も私に寄り添ってくれた。

この季節になると、嫌でも思い出す。

大好きだった、彼のこと。





「もっと、甘えろ。…その為に、俺が傍にいるんだろ?」


なんで。
どうして彼は、いつも私の欲しい言葉をくれるんだろう。


冷たくなった両手を握りしめ、深く呼吸を繰り返した。



彼の優しさにつけ込むような、そんな行為はしたくない。

そう思うのに。


「…ほら」


引き寄せられた手を拒むことも出来ず、ただされるがままに彼の胸に頭を寄せる。

腕の中は暖かくて、寒さを少しの間でも忘れることが出来るような気がして。


「……ごめ、ん…、ごめんね…」

「バーカ、泣きそうな声だしてんじゃねぇよ」





弱くて、ごめん。





微かな声で呟けば、彼はまた笑った。










――――――――――
WILLでもBGMにしつつ読んでください。
(10/12/25)
(12/1/25改)

[ 159/202 ]

[*prev] [next#]
[mokuji]





「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -