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「あ」
「沙紀?どないしたん?」
突然何かを思い出したように顔を上げた沙紀に、俺はすぐに反応した。
彼女の一挙一動が愛しいから。
ちょっとした変化だって見逃すつもりはない。
少し考える仕草をしてから、沙紀はニコリと笑う。
「ね、蔵ノ介。今日は“いい夫婦”の日だよ」
「あ、ほんまやな…。……!!」
普段は滅多に話題提供しない沙紀が自らこんなネタを振ってくるなんて……!
俺の脳内で一瞬にして色んな考えが巡った。
「沙紀。結婚しよか」
「いや、色々おかしいだろ」
瞬時にツッコミを返してくる辺りさすがやと思う。
けど、俺は至って本気や。
「照れ臭いのは分かる。せやけど、この辺はハッキリさせとかんと」
「どの辺だよ。さっきのコメントでなんで着地点そこに行き着いた?」
「夫婦の話題をやんわり振って、俺に結婚の意志があるか確認したんやろ?!……勿論あるで!俺は沙紀を幸せにする!!」
「……いや、ちょ、一人で盛り上がんないでくれる?」
一呼吸おいて、俺は更に彼女に詰め寄った。
「本気で、全力で、沙紀を幸せにする自信がある。沙紀にはいっつも笑顔でおって欲しいし、泣き顔も……まぁそれはそれで可愛ぇけどやっぱりなるべく見とないし……せやから……っ」
ぺしっ。
「……」
不意に小さな柔らかい手が、俺の額に軽く当たった。
「分かったから……っもう十分分かったから!…とりあえず落ち着け……っ」
指の隙間から見える、頬をピンクに染めた沙紀の姿。
一瞬で理性が崩壊するのを他人事みたいに感じていた。
「なんで結局抱き締められてんの私……」
「沙紀が可愛いすぎるのがあかんねん、ほんま堪忍してぇな……」
「おま、それこっちのセリフ……てか蔵ノ介」
「……、ん?」
「こら匂い嗅ぐな。……アンタまだ、年齢的に結婚ムリだから」
「あ」
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そう遠くない未来のはなし?
(11/11/22)
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